咲花倉庫少女マンガ名作選特集・神坂智子

担当者:咲花圭良 作成日:2001/01/20

作  品

如月坂の幽霊屋敷

コミックス

花とゆめコミックス(白泉社・全一巻)

初  版

1985年11月25日

初  出

「如月坂の幽霊屋敷」…1984年「花とゆめ」7号
「真知子in恋」…1984年「花とゆめ」23号
「春!如月坂」…1985年「別冊花とゆめ春の号」
「ONCE APON A TIME」…「花とゆめ」エポLULY

登場人物:如月姐さん、山田太郎、山田麗美子(太郎姉)、ママ、パパ、真知子(プードル犬)、ののえ(うどん店の娘)、ハルキート(プードル犬)、瑞垣秀、荻野咲子、他

あらすじ:東京新橋の一等地、如月坂にある百坪の古い屋敷を、山田一家は格安の値段で手に入れて越してきた。その長男・太郎(高二)は、ドジな母親と自己中心的な姉に振りまわされっぱなし、引越しの日も、いやな仕事をおしつけられた挙句、古い鏡台が残されているのを理由に、姉に一度決めた部屋割りを無理矢理変えさせられてしまった。
 その晩、なぜかどこの出前からも寿司の配達を断られた山田一家は、仕方なく近所のうどん屋まででかけ、夕食を取った。が、太郎はそこの家の娘・ののえにひとめぼれする。しかしアプローチしてみるもののからっきし相手にされない。
 相手にされないものの、恋に浮かれる太郎はフロ場で見慣れない女がフロに入っているのを目撃した。それが、この家に百年以上すみついた幽霊、芸者の如月姐さんだったのだ。
 如月姐さんが説明するには、その昔将校・紀之と恋に落ち、この家を戦争が終わったら一緒に住もうと買って預けられたのだが、彼は203高地に行ったきり帰ってこない、それでこの家を守りつつ彼の帰りをずっと待っているのだという。
 そんな幽霊である如月姐さんが見えるのは、恋をしている人にだけだというのである。
 姐さんの話をききながら、道理で家の中は最近キレイだし、用意されている朝ごはんもおいしいと思ったわけだ、総ては如月姐さんの仕業だったのかと太郎は納得するのだった。執筆者・咲花圭良
 その如月姐さんの口添えで、太郎はなんとか一目ぼれしたうどん屋の娘・ののえとつきあうことができるようになるが、どうもかわいいにはかわいいが、つきあううちに姐さんの方が魅力的に思えてしまう。
 しかも、ののえには元から彼氏がいたことが発覚したのだ。太郎はその場で失恋し、さらに、部屋の中が勝手にキレイになったり、ものが動いたり、太郎が誰もいないのに誰かと話しているような様子に不審を抱いた家族が、太郎の部屋にあった鏡台を破壊してしまう。そして、如月姐さんまで消えてしまった。
 恋をなくした故か、鏡台を壊したゆえか、とにかく如月姐さんが消えてしまった。理由はわからないが、もっと成長して、大好きだった如月姐さんとの再会を祈る太郎だった。

コメント:神坂智子の代表作はたくさんある。シルクロードシリーズ、『小春びより』、『T.E.ロレンス』、『蒼のマハラジャ』など。どちらかというとマイナーな作家だが、ファンには固定ファンがいて、しかも根強い。その中で小品中の小品、四話で幕を閉じるオムニバス、『如月坂の幽霊屋敷』は、目立たない存在であるが、一度読むとどこか心に残る不思議な作品でもある。
 幽霊もの、といえば、幽霊と恋に落ちる哀しい恋愛ものだとか、ホラーものを想像しそうであるが、この幽霊ものは一風変わっている。第一、よく読むとちょっとおかしい。
 家の中で勝手にものは動くし、見えないはずの如月姐さんが、ものを持てたり、掃除をしたり、お茶や酒まで飲んだりする。しかも、現代の服まで持ち出して、着たりする。だから、食べたものは形があるのにどこへいったんだ、とか、見えないのになんで服が着れるんだ、とか、着た服まで姐さんの姿が見えない人には見えなくなるのか、とか、少々突っ込みまで入れてみたくなるが、そんな突っ込みを蹴散らしてしまうコミカルさがあり、しかも、それがまた味にもなっているから不思議だ。
 コミカルでシニカル、軽薄で情熱的、それがこのストーリーの魅力であろうか。

 オムニバスであるので、幽霊屋敷の元の住人、如月姐さんと、今の恋をそれぞれの住人の視点に合わせて書かれて行く。四話完結なのが、ちょっと物足りないが、きちんと閉められているので、かえっていいかもしれない。
 しかもストーリーを運ぶ如月姐さんは粋でかわいいし、まるで恋のキューピットなのだ(幽霊だけど)。
 今ストーリーを振りかえると、現在では幾つかの作品で見られたラストになってしまっている。もしかしたら神坂のこれをみんなが踏まえているのかもしれないし、あるいは、その大元ネタがあるのかとも考えたが、もしかしたらこういうネタにすれば、ラストは自ずと選ばれるのかもしれない。でも、同じ「待つ」がテーマでも、『雨月物語』の「浅茅が宿」のような陰惨さはないし、「望夫石」のように、待つうちに石になってしまったようなほったらかしの中途半端さもなく、熱く、そして、さわやかなラストである。
 とりあえず、オムニバスで読んだ後、ちょっと甘く幸せな気分になれるのは、間違いない。

 ただ、私が神坂をすごいと思ったのは、コミックスラストに付されたあの書き下ろしのわずか5ページだった。おそらく、ちょっと気の小さい作家だと、あの書下ろしはできないと思う。でも、「オイオイ…」と突っ込んで(実は話の中にもそういう設定はある。待っていた将校の帰ってこなかった理由が方向音痴で地球を反対に一周してしまったとか…。太郎くんでなくてもめまいがするぜ。)、こちらも受け入れてしまえるあたり、それもまた神坂の才能かもしれない。(C)少女マンガ名作選
 あの度量があるからこそ、既に映画でイメージ付けられてしまったアラビアのロレンスを、自分であそこまで大胆に創作して(『T.E.ロレンス』新書館)、しかも、ファンに受け入れさせてしまえるまでに描き切れるのだろうと、改めて実感せずにはいられなかった。

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