少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良 作成日1999/3/5

作   品 

はみだしっ子(シリーズ)

作 者

三原順

コミックス

花とゆめコミックス(白泉社・全十三巻+外伝「ロングアゴー」)白泉社文庫全六巻

初   版 

1976年(?)〜1981年11月

初   出 

「花とゆめ」昭和50年〜昭和56年17号まで、断続的に掲載(本編)

登場人物:グレアム(サーザ)、アンジー(リフェール)、サーニン(マイケル)、マックス、エイダ、オフィーリア、ジャック・クレーマー、パメラ・クレーマー、ロナルド、ダナ、クークー(マーシア・ベル)、その他 

あらすじ:傲慢な父親から逃れるために家を出たグレアム(六歳)は、売れるために子供を捨てた女優の私生児アンジーと、母親が、喧嘩の絶えない父と祖父の間で狂死し、自らも精神不安になって地下室に閉じ込められていたサーニン(四歳)と、父親に殺されかけて家を出たマックスと四人で、「自分たちを愛してくれる家族を探す」ための旅を続ける。四人は何度も人に裏切られ、だまされ、傷つけられ、人の汚い部分をみつめ葛藤しながら、旅を続けるが、或る日、バスが雪山で事故を起こしたことからバラバラになってしまう。後この四人は再会し、医師ジャック・クレーマー夫妻の元に養子に入るのだが、この雪山の事故で生き残ったものたちは、実は捜索の手を待つ間にいさかい、けがをしたマックスが、使った「薬」のために父親に殺されかけた時の記憶で錯乱状態におちいり、「事件」を起こしたのだ。
 このときの事件は秘され、それ故に後のグレアムの運命を大きく狂わせることになるのである。
 ストーリーは、グレアム、アンジーが14歳の時まで続けられる。

コメント:「ビリーの森ジョディの樹」を遺作としてこの世を去った、三原順の代表作である。名作の中にカウントされ、熱烈なファンも多いが、少年少女が理解するには少し難しいために、(ストーリーが進むにつれて難しくなる)「名作であることは知っているが読んだことはない」、あるいは、「読んだことはあるし名作であるというのはわかるけれども、うーん…」とか、時には名作にカウントされるのを忘れられることさえある。
 この作品が連載された後にデビューした少女マンガ家たちで、これを読んで精神的な作品を手がけた、あるいは志した人も多いだろうし、数多くのマンガ家たちに尊敬されているに違いない(しかし川原泉やくらもちふさこが交流者の中にいるのは意外だった)。私は昔、このマンガ家はストーリーマンガのない時代に生まれていれば、おそらく小説家になっただろううちの一人ではないかと思ったが(そういう少女マンガ家は結構多い)これ以上過酷な物語を描く作家、また人の過酷を描いて強いファンを持つ作家は他にはいないだろうとさえ思われる。
 こんな過酷な現実を見つめつづけて苦しくはなかっただろうか、とさえ思うのだが、もうこんな天才には二度と出会えないだろう。
 「はみだしっ子」は、不幸な境遇の中にあって、幸福を探すための子供たちの物語ではあるが、最終章「つれて行って」を読んだ後、「どこへ?」という問いを発せずにはいられない。結局、幸福や安住、つまり、「居場所」は、雨風から守ってくれる家でも、温かいスープを出してくれる家庭ではなく、「こころの拠り所」あるいは、「心が安らげること」に他ならないということを結論にして終わっているような気がする。幼い頃に受けた傷、犯してしまった犯罪、守りきれなかった仲間、…純真な子供故に、ごまかすこともできず、純真な故に、「はみだし」てしまう逆説。それは、太宰治の「人間失格」とも、一脈通じるかもしれない。
 三原順には、この後、「夕暮れの旅」や、ムーンライティングシリーズが登場するが、レトロな少女マンガの雰囲気を脱し、本格的に劇画タッチの「人間を描く」作品へと展開していく。その後の展開を併せみた時、「はみだしっ子」が、出来すぎたのか、といえば、それぞれの作品にはそれぞれの力があり、また「はみだしっ子」はその絵の未完成さが物語る通り、テーマ題材の選択とともに、三原自身の若さが成させた作品だと言っていいのではないだろうか。
 今年の三月二十日で、三原の死から丸四年を迎える。次回更新日にと思ったが、あまりに畏れ多いので、今回を選んだ。

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