少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良 作成日:2001/02/20

作 品

マリオネット(シリーズ)

作 者

愛田真夕美

コミックス

花とゆめコミックス(白泉社・全8巻)

初  版

1巻1983/9/24 2巻1984/2/23?6/24 3巻9/22 4巻1985/1/25 5巻7/25 6巻10/25 7巻1986/3/25

初  出

「白い闇は魔女」…「花とゆめ」昭和56年18号
「猫の目」…「花とゆめ」昭和57年11号
「鳶色の童話」…「花とゆめ」昭和58年4号
「ガラス細工の森」…「花とゆめ」昭和58年17号〜昭和59年4号
「鍵」…「花とゆめ」昭和59年2月増刊号
「カシスの庭」…「花とゆめ」昭和59年9号〜20号
「黒のコレット」…「花とゆめ」昭和60年5号〜24号

登場人物:ダニエル・アンドルー・ド・ヴィコント、ナギ、モリエール(ヴィコント家弁護士)、マリィ(ダニエル姉)、マダム・ジュモー(ダニエル義母)、フランソワーズ(ダニエル実母)、サラ、(ダニエル叔母)
 デルフィーヌ・オッセン、フェネス男爵、アンティエーヌ・フレッソン、マルタ
 サッシャ・フレッソン、ジャン・リュック、モーリス・コルニエ、アシル・シャルル・ブローカ、レイモン・ベルグラン、
 コレット・ヴァルダ、ルネ・ヴァルダ、ヴァルダ夫人、マルク・ダリュー伯爵、パトリス、イルマ、フロランス・ペリエ、ソフィア、他

あらすじ:パリで屈指の名門、ヴィコント家は、伯爵、その娘マリィ、そして息子ダニエルと、家族で幸福に暮らしていた。ところが、伯爵が再婚後二年目に病死してから家の中の空気が変わって行った。ダニエルが二十二歳になったら、そのヴィコント家の莫大な財産を継ぐはずなのだが、そこに義母がダニエルのとり込みにかかったのだ。義母と弟二人の関係に激しく嫉妬する姉マリィは、義母とのいさかいを重ね、やがて二人とも謎の死を遂げてしまう。
 その後も、金色の髪、ヴァイオレットの瞳を持つ美少年、ダニエルの元には、彼の財産を目当てに寄りつくものがあったが、次々に不明の死を遂げ、いつのまにか、「ヴィコント家に近づくものは、不吉な死を遂げる」とさえ言われるまでになった。(以上「ガラス細工の森」まで)
 そしてダニエルは十五才、二十二才の財産相続までに、伯爵としての教養と自覚を身につけるため、弁護士・モリエールに寄宿舎に入るよう言い渡される。その準備として家庭教師をつけられることになったのだが、ダニエルはお仕着せの家庭教師をさけるため、遠縁のフェネス男爵のパーティーに出席した。そしてそこで、またもや殺人事件が起こった。ショックで倒れたダニエルは、その足でナギと共に母たちの墓所のあるエルムノンビールの別邸へと向かった。
 そこでダニエルは女性家庭教師デルフィーヌ・オッセンと、天使のように愛らしく無垢な少女、アンティエーヌに出会う。ダニエルは、森で偶然あったこの少女・アンティエーヌに強くひかれていき、やがて、時々森で会うことになる。文作成・咲花圭良
 一方、ダニエルが出席したパーティーで起こった殺人事件のために、別荘まで転がり込んできた、フェネス男爵とその娘・マリナ。ヴィコント家の財産を狙ってなんとかマリナとダニエルの結婚を目論んでやってきたのだが、実はこの二人は、家庭教師としてダニエルの元にやってきたデルフォ―ヌの恋人を罠にはめて殺した張本人だった。デルフォ―ヌは復讐を決意していて、森の中でマリナを底無し沼にはめて殺害する。ところが、そこをアンティエーヌに目撃されてしまい…。(以上「ガラス細工の森」から)

コメント:「とっておきのA・B・C」、「ばいばいCーBOY」など、明るくてエッチな色調で知られた愛田真由美が、一転ミステリータッチの作風で世に迎えられたのが、この「マリオネット」シリーズであった。
 「とっておきのA・B・C」で先に単独でコミックス収録された、表題作で短編「マリオネット」から、四作、シリーズ短編として続いたが、一大連載として「ガラス細工の森」(コミックス二巻〜)が始まり、好評を受けて「カシスの庭」、「黒のコレット」の、長編としてシリーズをなした。
 短編の段階では、どちらかと言うと、悪魔的魅力を持つ美少年ダニエル、と言った感じで、殺人にも自ら荷担している。ところが、「ガラス細工の森」では一転して悲劇の美少年の様相を呈し、最終話「黒のコレット」では正義の味方とまで変じた。
 おそらく愛田が、当初の予定と違ってシリーズが長期化したこと、また、好評を得て読者を得るにしたがって、ダニエルの性格を変貌せざるを得なかったのが実際だったかもしれない。しかし愛田のマリオネットシリーズとして評価されているのは、主にこの悲劇の美少年であり、正義の味方である「ガラス細工―」から「黒のコレット」のダニエルであって、私もそこを読めば十分ではないかと思う。というより、シリーズ全編を通して読むと、少し統一性に欠け、作品全体の質が落ちる感触を否めない。
 だから、読まれるなら、ダニエルという主人公がどういう過程を経て産まれたにせよ、コミックス二巻から読まれることを、私はお勧めする。

 ジャンルとしては、おそらくシリーズはじめでは近代貴族社会を舞台にした残酷色の強いミステリーであったのが、「黒のコレット」ではオカルト色が濃くなって、オカルトミステリーとなった、という感じだろうか。ジャンルそのものよりも、この作品で愛田は、貴族社会を舞台とした独特のロマンチックでミステリアスな世界を描きたかったというのが本当かもしれない。その結果としてのジプシー占い師や黒魔術等の題材や小物が選ばれたのだろう。
 おそらく、読んでふと頭を過ぎるのは竹宮恵子「風と木の詩」や萩尾望都「ポーの一族」であろうと思うが、そこからどこか魔夜峰男「パタリロ!」や、当時洋画で流行したオカルトチックな色合いが感じられたり、また掲載雑誌「花とゆめ」で、当時当然のように書かれたエロティシズムや残虐性も盛り込まれているから、色々なところから影響を受け、しかし愛田テイストを守りながら、この作品は紡がれて行ったに違いない。
 醒めてみれば、少し展開が安易な愛憎、すぐに生じる性関係と受け取らざるをえないところもある。でも、それが気にならない、という人にとっては、はまるにたる「妖しい世界」であり、息つく間もない、残酷性を備えたミステリーではある。
 特にシリーズ最終作、「黒のコレット」は、実はマリオネットシリーズから外しても、ストーリーは読めるし、他の作品を抜かしても、これ一点を読んだ方がいいかもしれない。度重なる思いもよらぬ事件展開、安定した絵柄、おそらく愛田の中では一番いい時期であり、満ち足りて描ききれた作品ではなかったかと思うのだ。(c)HP「少女マンガ名作選」
 ストーリーを愛した人、キャラクターを愛した人、その作品独特のムードを愛した人と、リアルタイムでも様々であった。シリーズの中でのダニエルの変容も、成長の過程と思えばとれなくもない。だから、作品をどの視点でとらえ、どう楽しむかはあなた次第である。
 楽しみ方も千差万別、その多角的な魅力と共に、人それぞれ、魅せられる部分はおそらく、違っているだろう。

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