少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:2000/05/01

作 品

アルペンローゼ

作 者

赤石路代

コミックス

フラワーコミックス(小学館・全9巻)

初   版

1巻1983/11/20 2巻1984/3/20 3巻7/20 4巻12/20 5巻1985/3/20(第1部)6巻1985/8/20 7巻1986/1/20 8巻1986/7/20 9巻1986/10/20(第2部)

初   出

『ちゃお』昭和58年4月号より連載

登場人物:ジュディ、ランディ、プランタン(鳥)、ラインハルト・アッシェンバッハ(ジュディの幼馴染・天才音楽家)、ジュルジュ・ド・グールデン伯爵、ルノー・デュポワ、フランソアーズ(グールデン伯爵夫人)、ハンス、クララ(ハンス妹)、アンリ・ギザン将軍、ロバート、リーズル、ヨハン、ハインリヒ、エレーヌ、フレードリヒ・ブレンデル、ジャン・ジャック、デュナン夫妻、 マチルダ・トロンシャン
 ジャン・ジャック、テオドール・シュトラッサー(ジャン・ジャック義父)、マドゥレーヌ・トロンシャン、

あらすじ:一九三九年、時代は第二次世界大戦を目前に控えていた。
 スイスの高原に、叔父夫婦の世話になりながらランディは暮らしていた。ある夜、幼馴染のジュディが勤め先の店主に暴行されそうになり、家に逃げ帰ってくる。ジュディは六年前、記憶喪失になってタンポポ畑に倒れていたのを、ランディがみつけ、自分の家に連れ帰ったのだ。名前も覚えていない彼女にジュディ(木曜)という名前が与えられた。だが、ランディの叔父夫婦には彼女を養う余裕はなく、街のレストランに働かされていたのだった。
 雇い主の元に戻るのはいやだというジュディを、叔父夫婦はいやいや家に置くことにする。ところが、森でグールデン伯爵がジュディの鳥プランタンを撃とうとして止めに入ったランディが、グールデン伯爵にムチで傷つられ、それにジュディが抗議したため、ジュディはグールデン伯爵の居城に連れ去られてしまう。
 ジュディはグールデン伯爵邸で永遠に働くことを命じられたが、ランディが助けにやってきた。ランディは日ごろからグールデン伯爵を憎んでいた伯爵の夫人に助けられ、ジュディを救出して無事脱出、グールデン伯爵の追及を逃れるために家にも帰れない二人は、ジュディの家族を探すたびに出る。
 二人はアルペンローゼという言葉と、ジュディが六つの頃までドイツ語を話していたというのを手がかりに、首都ベルンへ出る。そこでアルペンローゼが花であることを発見し、町でその妹クララを車にひかれそうになったのを救ったために出会った、ハンスの友達の話から「アルペンローゼ」という歌があることを知る。しかし、アルペンローゼの歌をきくと、ジュディはなぜかひどくおびえてしまうのだ。
 二人は「アルペンローゼ」という曲、そしてその作曲者のいるオーストリアのザルツブルグに、ジュディが深い関わりがあったのではないかと推測する。
 ハンスに一晩の宿を借りた二人だが、妹クララが熱を出し、病院に運ばれる。クララの入院費を捻出するため、ハンスは、街中にはられたグールデン伯爵の二人を探索するポスターに書かれた賞金に目をつけ、ジュディとランディのことを密告してしまう。
 ジュディとランディは街中を逃げまわる。ところが、その日の昼間、クララをひきかけた車の乗車主、ギザン将軍に助けられた。そこでギザン将軍は知り合いの娘の若い頃にジュディがそっくりで、ジュディはその人の娘かもしれないと教えてくれる。その人はオーストリアに嫁いでいったというので、手がかりを探しに二人は国境を超えることを決意、ギザン将軍に助けられ、グ―ルモン伯爵の追っ手から逃れながら、 国境越えに出発する。
 汽車の中でであった人達から、アルペンローゼの歌に二番があることを知り、また作詞者に昔であったという人物と遭遇するのだが、汽車はドイツ軍の輸送列車を止めるためにゲリラがしかけた鉄橋の爆破に遭い、残された爆弾の除去に立ち向かったランディが爆破に巻き込まれて行方不明になってしまう。 文作成・咲花圭良
 
 ジュディはランディの捜索を待っていたが、一日も早い両親の探索を周囲に進められ、連絡先を残してザルツブルグに旅立ち、「アルペンローゼ」の作曲者、レオンハルト・アッシェンバッハの家を訪ねるのだが…。

コメント:赤石路代を有名にした最初の作品が、この「アルペンローゼ」だろう。
 特にアニメ化されたことでも有名になった。アニメ化された時のタイトルは「炎のアルペンローゼ」、作品中にある「アルペンローゼ」の歌詞に曲がつけられ、テレビアニメ界初の交響曲が準備されたということで話題にもなった。が、残念ながら、私はこのアニメ版をよく覚えていない。
 また、この人絵がいつうまくなるんだろう、と思ったが、どうやらこれが元々の絵柄らしい、と気付いたのは、次の作品を見てからだった。
 いかにも少女マンガな絵柄の中に、ドラマチックなストーリーを盛り込むのはこの当時の小学館系では珍しくなかったのかもしれない。描かれているショートヘアの女の子をさして「これは男の子だよ」といわれても、「ふーん、そうか」と騙されてしまうし、逆でもやはり同じ反応をしてしまう。絵柄はそんな感じだ。
 
 設定はナチスドイツが専制してきた時代であるが、にもかかわらず、ヒトラーはただの一度も登場しない。舞台は、第二次世界大戦の、永世中立国を守り通すかどうか、という時のスイスである。だから、直接ナチと関わるような状況もあまり登場しない。戦時中独特の悲惨さもさほどない。ただ、ジュディという少女にまつわる、あくまでも人間的な原因に発して話が展開されている。
 ただ、しかし、ジュディの幼馴染レオンの両親はナチに殺された。レオン自身も反ナチの歌「アルペンローゼ」を作曲している。そしてジュディの父親も作詞をしてナチに追われることになった。しかし、「アルペンローゼ」の歌詞、「わたしをとらえる十字のかせを」は、ジュディにとってはナチのハーケンクロイツではなく、彼女自身をそこへ誕生させた運命そのもののようでもあるのだ。
 記憶を呼び覚ますために、過去をたどるために作者によって作られた歌詞であり、その歌詞を導くための時代設定であっても、この詞はあくまでもジュディという一少女の運命のために必要とされた歌詞なのだ。
 そして、歌詞の主題になっているのは、「勇気を持って愛する人のために闘うこと」。主人公たちの姿もまた然り。よって、特別な時代の特別なストーリーのようではあるけれども、大きな視点で切り替えて見れば、その時代を生きるジュディにばかり与えられた運命と限定する必要もないかもしれない。過酷な運命を背負ったある一人が運命を突破すること、そして、戦中であるなしにかかわらず、「勇気をもって愛する人のために戦う」ということは、時代を超えて変わることではない。
 この物語は、戦中のみのドラマチックストーリーに終始してはいない。
 そこがこの話の救いであり、このストーリーの魅力でもあり、楽しめる普遍性の原因なのだろう。

 二回目読み返すと、「えー、そんなに偶然って重なるもんか?」とか、「ちょっと展開が早過ぎない?」と突っ込みを入れたくなるところも多々ある。ただし、初読の時は、「ここで止めるなよ」という巻末の終わり方をしていて、おそらく連載と同時に読んでいた読者は、中毒にかかったように次を待っていただろう。

 六巻以降の第二部は最初から予定になかったそうで、編集部からの注文で作ったらしい。「えええ? ランディにお兄さんがいたの?」といかにもとってつけたような設定だが、一応後で作った割には苦しいながらも説明がついている。おそらく題材的としては、幾らでも話を作れるネタなのかもしれない。ジュディが実はアンリー・デュナンの血族だったことの設定も、二部で意味を持ち、生きた。何にせよ、読者は一部のあれで終わっては、ちょっと物足りなかったろう。きっと中毒だったろうし。
 河惣益巳の「サラディナーサ」も編集部の注文だった。
 「サラディナーサ」は多くの人に河惣益巳という人の作品に向ける目を変えさせた。
 商業主義か、作品か。(c)HP「少女マンガ名作選」
 作家を生かすも殺すも、時として、読者と編集部の手にかかっているのだと、改めて気付かされる、そんな作品の一つでもある。

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