少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:1999/10/4

作 品

それでも地球は回ってる  

作 者

秋里和国弐

コミックス

フラワーコミックス(小学館・全五巻)、小学館漫画文庫(全二巻)

初 版

 ―――

初 出

週刊少女コミック 昭和58年第22号より連載

登場人物:鳥居さかみ、森崎醍士、春名志郎、乙訓天空、無雲(ムーン・志郎の父親)、安西広子、神山蛍子、鳥居ゆかり(さかみ母)、鳥居龍吾(さかみ父)他

あらすじ:英徳大学付属英徳高等学校一年鳥居さかみは、体育祭の日、学校に遅刻しそうになった。そこへ、一人の原チャリ少年が現れる。いろいろあって、さかみは彼のバイクで学校まで送ってもらうのだが、少年は体育祭を見学をしに再び現れた。彼の名は森崎醍士。
 ところがさかみがふとしたことで殴ったのをきっかけに、彼はさかみの言うことを何でもきくといい、結局リレーに出てもらうことになった。リレーは優勝、その後すぐに少年は姿を消すが、
 後日学校の近くの森で、他の二人と一緒にいるところを目撃することになる。三人は森の中で、どこかの学校の制服を燃やし、「おれたちは運命共同体だ、うらぎるなよ」と誓い合っていたのだ。
 後日、三人はさかみのクラスの転校生で、他の二人はフランス人とのハーフ春名志郎、超美形の乙訓天空だとわかるのだが、さかみに森でのことを目撃されたことを知った三人は、口封じに誰かの彼女にしてしまおう、とさかみに接近する。
 ところが、さかみは一番肝心なところをきいていなかったということがわかると、三人は途端に離れてしまう。それで今度はさかみの方から接近し、その秘密を知るための標的に醍士を選ぶのだが、志郎に感づかれ、醍士と仲良くするのを邪魔される。
 そこでさかみは醍士との交流を復活させるため、志郎とかるた大会で勝負することになるのだが、勝負を見ないまま最後は和解、三人とさかみとのつきあいが本格的に始まった。(C)咲花圭良
 さてこの三人には秘密があった。三人が転校してきたのも、森での盟約も、それが原因だったのだ。その秘密は、三人が元いた学校に通う、さかみの元友人からの一本の電話であかされる。三人はそれぞれ、恥ずかしい性癖を持つ、変態だったのだ―――!

コメント:
 バカくせえ。
 くだらない。
 そんなことを、心の底で思いながら、それでもついつい読んであしまうのが、秋里和国の漫画ワールドなのだ。
 この人の描く作品は、純シリアスとギャグに大別できるような気がするが、十年前刊行と同時に読んでいて、ストーリーで記憶に残っているのは、なんとギャグばかりなのだ。シリアスストーリーは、読んだはずなのに、全く頭に残っていない。
 文庫版の解説者の誰かが、この作品に出てくる変な性癖を持つ登場人物たちは、現代の十年経った今の世の中では、少しも目新しくなく、それでも今読んでも秋里ワールドの「変な感じ」は残るというのだ。全くその通りなのだと思う。
 この人がギャグ作品を導く絶妙の「間」が、秋里ワールドを楽しむ最大の魅力であると同時に、作品を面白くしている最大の「味」だと思うのだ。
 だから心のどこかで、読み始めると「バカくせえ」とか、「くだらない」とか思わずにいられないし、「どうだっていいじゃないか、そんなこと」とつっこみさえ入れたくなる。とくにこの「それでも地球は回ってる」という作品は、その色が顕著なのであるが、読み終わってみると、「ああ、楽しかった」という言葉しか残っていないのも、事実なのだ。(C)少女マンガ名作選

 秋里は、「花のO―ENステップ」というタイトルの作品でメジャーとなり、「それでも地球は…」を経て、「Made in ニッポン」へと作品を展開させている。「それでも地球は…」は「花のO―EN…」から絵柄が変わる過渡期の作品であるが、元々コケティッシュな少女が大人になるように、絵柄は完成されていく。「Made in…」以降、彼女の絵柄はどこか色気を帯び、どこかにいやらしさを帯びながら、しかし作品前面へいやらしさを描くことを、極力おさえることで、ギャグにありがちな下世話さをギリギリ回避している。
 また、作品の特徴として、いい男がたくさん出てくるし、主人公の女の子もかわいい子が結構おおい。「それでも…」の場合は、かわいい女の子に美男子三人がつきまとう、という少女たちにはマコトにおいしい世界で、少女マンガの典型中の典型といえるかもしれないが、よく考えてみればそんなことはあるはずないのだけれど、結局その女の子を守るナイトのような彼らは、読者のハートを掴むための一条件とさえなっていた。
 しかし、読者は本気で作品の世界の登場人物にいかれているわけではない。いや、なかった。当時を振り返れば、おそらく、その独特の世界のノリにノっている一材料であったのだ。

 かつては秋里は、年齢制限つきの作家ではないかとさえ私は思った。しかし、やはり面白い。思えばおそらく、彼女の描く世界のコクは、少年少女にはかえってきつすぎた。今、読んで、どう思うのか。今初めて読んで、何を思うだろう。
 きっと、やっぱり、「そんなことはどうだっていいじゃないか」などと思ってしまうだろう。しかし、折口信夫だって言っている。文芸とは、生理的にも、精神的にも束縛されている日常から、解脱し、くつろぐことだと。
 ならば秋里ワールドも、「そんなことはどうでもいい、それもよしとしよう」と、言っていいと思うのだ。
 だって、十年経って読み返して思ったのだ。
 ああ、楽しかった。

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