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バカくせえ。
くだらない。
そんなことを、心の底で思いながら、それでもついつい読んであしまうのが、秋里和国の漫画ワールドなのだ。
この人の描く作品は、純シリアスとギャグに大別できるような気がするが、十年前刊行と同時に読んでいて、ストーリーで記憶に残っているのは、なんとギャグばかりなのだ。シリアスストーリーは、読んだはずなのに、全く頭に残っていない。
文庫版の解説者の誰かが、この作品に出てくる変な性癖を持つ登場人物たちは、現代の十年経った今の世の中では、少しも目新しくなく、それでも今読んでも秋里ワールドの「変な感じ」は残るというのだ。全くその通りなのだと思う。
この人がギャグ作品を導く絶妙の「間」が、秋里ワールドを楽しむ最大の魅力であると同時に、作品を面白くしている最大の「味」だと思うのだ。
だから心のどこかで、読み始めると「バカくせえ」とか、「くだらない」とか思わずにいられないし、「どうだっていいじゃないか、そんなこと」とつっこみさえ入れたくなる。とくにこの「それでも地球は回ってる」という作品は、その色が顕著なのであるが、読み終わってみると、「ああ、楽しかった」という言葉しか残っていないのも、事実なのだ。(C)少女マンガ名作選
秋里は、「花のO―ENステップ」というタイトルの作品でメジャーとなり、「それでも地球は…」を経て、「Made in ニッポン」へと作品を展開させている。「それでも地球は…」は「花のO―EN…」から絵柄が変わる過渡期の作品であるが、元々コケティッシュな少女が大人になるように、絵柄は完成されていく。「Made in…」以降、彼女の絵柄はどこか色気を帯び、どこかにいやらしさを帯びながら、しかし作品前面へいやらしさを描くことを、極力おさえることで、ギャグにありがちな下世話さをギリギリ回避している。
また、作品の特徴として、いい男がたくさん出てくるし、主人公の女の子もかわいい子が結構おおい。「それでも…」の場合は、かわいい女の子に美男子三人がつきまとう、という少女たちにはマコトにおいしい世界で、少女マンガの典型中の典型といえるかもしれないが、よく考えてみればそんなことはあるはずないのだけれど、結局その女の子を守るナイトのような彼らは、読者のハートを掴むための一条件とさえなっていた。
しかし、読者は本気で作品の世界の登場人物にいかれているわけではない。いや、なかった。当時を振り返れば、おそらく、その独特の世界のノリにノっている一材料であったのだ。
かつては秋里は、年齢制限つきの作家ではないかとさえ私は思った。しかし、やはり面白い。思えばおそらく、彼女の描く世界のコクは、少年少女にはかえってきつすぎた。今、読んで、どう思うのか。今初めて読んで、何を思うだろう。
きっと、やっぱり、「そんなことはどうだっていいじゃないか」などと思ってしまうだろう。しかし、折口信夫だって言っている。文芸とは、生理的にも、精神的にも束縛されている日常から、解脱し、くつろぐことだと。
ならば秋里ワールドも、「そんなことはどうでもいい、それもよしとしよう」と、言っていいと思うのだ。
だって、十年経って読み返して思ったのだ。
ああ、楽しかった。