コメント:「悪魔の花嫁」の作者で知られたあしべゆうほが、オリジナルで書く長編の本格ファンタジーである。1981年からから20年にあまる連載になるが、1987年舞台がローマに移転しはじめた頃から急激にトーンダウンし、現在17巻を数えてスローペースで連載が続けられている。
作者が死ぬまでに書き終えてほしいと懇願されている作品の一つと言ってもよく、秋田書店であり、1年、ないし2年に一度という超スローペースでのコミックス刊行にも関わらず、また、本屋でも全巻揃えておいていることが少ないながら(もちろん文庫化されていない)未だ読者がついて、しかも配本されれば売れ続けている数少ない作品の一つでもある。(C)少女マンガ名作選
アニメ化されたわけでもなければ、雑誌で特集を組まれても、特に名作に数えられるわけでもない。しかし、意外と「読んだ?」ときくと、読まれているのも、この作品の特徴である。
ファンタジー要素はもちろんであるが、神話や歴史に題材をとり、民俗学的事項(首を切るのは再生を防ぐためとか、真の名の存在とか、葬送の儀式だとか)もきちんと踏まえられているあたり、作者の生半可ではない調査量にひたすら感嘆するばかりであり、また、登場人物も多く、筋も複雑に練られているわりには、すんなりと夢中にして読ませてしまうから、あしべの持つ力量の底力を感じさせる。が、あまりに話が壮大であるためか、あるいは、作者の個人的事情が関連しているためか、なかなか終わりを見ないのが、まだるっこしいというか残念でならない。なかなか終わらないために名作の一つにもいれられないという実情を考えても、ここはあしべ氏にふんばってもらって、この一大叙事詩を一日も早くクライマックスへと導いてほしいものである。
この作品の特徴としては、例にもれず、美男子がいっぱい。その中でアリアンはなかなか大もてであるが、恋は全くに近いほどしない。いい感じ、と思っていると、いつもその男との別れが待っている。運命の男かもしれない邪眼のバラーは(グリフィスとくっついてほしい人もあるだろうが…)美少年が好きだし、妻まで迎えてしまう。妻は他の男の子を身ごもり、その子はバラーの子として育てられる。要するに上手くいかない恋があちこちで空回りしていて、よく考えたらドロドロとした人間ドラマなのだ。そのかわりにヘンルーダが恋の部分をかなり引きうけているという感じである。が、邪眼のバラーの「黒い血」を額にたらされた彼女が、その黒い血で魔の拠りましにされてしまっているために、恋も上手くいかず、幸せもなかなかつかめず、アリアンの旅そのものも上手くいかなくしてしまっている。
この恋や、魔の拠り所となってしまっているヘンルーダと、杖を求める杖なきドルイダス・アリアンとのいざこざを中心にしながら、旅の行程が描かれていると読めば、この話はある程度わかりやすいかもしれない。こんなドロドロした複雑な人間ドラマを、ファンタジーや神話の世界に放り込んでいるのだから、書くほうもなかなか大変だろうが、読む方もなかなかたいへんで、ちょっとあらすじを話して見ろといわれると、複雑で言葉につまるむきも多いだろう。が、読んでいるうちは、そんな複雑さを感じさせられず、ぐいぐいと引き込まれる作品であることは、あるのである。
本格ファンタジーの例に漏れず、やはりRPGの要素がかなり高いというのも確かである。アリアン自身が何かを身につけ、パワーアップしないと次に進めないし、右が左かで大きく運命が変わるような印象を受ける場面が幾つかある。この作品を面白くさせているもう一つの要因が、この「パワーアップ」、要するに、次のステージにどんどん上がっていて、最後の「杖なきドルイダス」という上がりに向かうというところにも、あると思う。
超人的不思議の世界であり、独特の雰囲気が描きこまれている。絵も美しい。そして神話、歴史上の人物と、場合によっては欲張りすぎとも言えるたくさんの「面白い要素」がてんこもり。そのどれを楽しむでもよいが、おそらく全部楽しんで何度も堪能することだろう。
クライマックスに入っても、完結まで長そうである。おそらく、結末はできていることだろうから、是非完結してほしいものである。そして、名作の一つとしてカウントされる日のくることを願うものである。(2001年5月4日)