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角川書店から出版された初めての少女漫画誌が「月刊ASUKA」で、その創刊号にこの「花のあすか組」の第1話が掲載された。最初、何かの冗談かと思った。マンガのタイトルを掲載誌名から頂戴するなんて。しかし、当初の作者の思惑はどうだったか知らないが、この作品はすごいヒット作となった。女優つみきみほのデビュー作として映画化されたことをご存知の方は多いだろう。
この作品がなぜあれほどまでに人気を博したのか――それはひとえに主人公あすかのカッコよさに他ならない。80年代中盤にあって、好きな歌手は山口百恵、制服姿はくるぶしまでのロングスカート、普段着は特攻服…まるで70年代の不良を彷彿とさせる。世はバブル期の黎明、テレビの深夜番組では女子大生が我が物顔で幅を利かせ、男女雇用機会均等法が施行された頃だ。そんな時代にこのキャラクター、しかし大当たりなのである。
あの頃、少女たちはみんな強くなりたがっていた。その「強さ」がどんなものなのかを自覚しないまでも、大概の少女がそう願っていた。深夜番組でもてはやされた女子大生にしても、キャリアウーマンを目指した少女にしても、形はどうであれ、自分の存在を前面に押し出し「私はこうなんだ」と主張したがっていたはずだ。だから、群れに馴染まず、人に甘えず、ストイックなまでに自律を保とうとするあすかに魅了される。
またその反面、「ガラスの十代」という言葉が生まれたような時代でもあった。
この作品の魅力は、表向きの派手さに縛られるものではない。夜の新宿歌舞伎町という特異なシチュエーション、そこでのヤクザとの立ち回り、或いは暴走族との抗争、果ては「全中裏」なる怪しい組織の存在、それらと繰り広げられるアクション――はじめて読むと、そんなものが目の前にぶら下がって、急展開のストーリーに惹きつけられる。しかし、本当の魅力はやはり“あすか”という少女のあり方、このひとつに尽きるだろう。
あすかは始めから強かったわけではない。裕福な家庭で優等生として育ったが、中学入学直後からいじめに遭い、自殺を図り、精神科へ半年間入院する。彼女が再起できたのは「命の尊さ」と「戦うこと」を知ったからだった。だから、現実の苦難に直面してくじけそうになっている少女と出会うと、どうしてもほっておけないところがある。だが単にそんな少女たちを助けるのではなく、戦い生きることを教える。そしてあすかと関わった少女たちは、あすかは決して強いわけではないことに気づく。脅えもすれば迷いもする、しかし最後まで諦めずに自分の力で立ち向かっていくだけなのだと。「力」の強さだけではなく、「心」の強さを感じるのだ。(C)少女マンガ名作選
あすかは決して無敵のヒーローではない。現実離れした設定の中にありながら、とても身近に感じられる。
長編と言える作品だが、内容は同じテーマでエピソードを変えて繰り返し語っているようなものなので、必ずしも全巻読み通さなくても、この作品を十分に味わえると思う。いかんせん、大人になってから手にとると、やはり「全中裏番組織」とか、縦ロールでドレス姿の「ひばり様」とか、「蘭塾編」に出てくる「プリンセスA・B・C」とかに、拒否反応を起こす人もいるかと思う。6巻からが「蘭塾編」になるので、5巻あたりまでなら無理なく大人でも読むことができると思うし、それで十分なのかもしれない。実際、「蘭塾編」が終わると「ハレルヤ2Y編」「戦23編」と続き、それぞれが独立したストーリー仕立てになっている。
ただ全編読まないと、あすかにとってのキーパーソンである鬼島陽湖との決着が分からないようだ。と言うのも、今回の作品リストを書くに至っても、実は私は全巻読んでいません。そんな者がえらそうにコメントを書いてしまったことはお詫びしたいのだが、たとえ全巻読まなくても十分にすばらしい作品であることは、ぜひご理解いただきたい限りだ。