少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:1999/12/4

作 品

記憶鮮明

作 者

日渡早紀

コミックス

花とゆめコミックス(白泉社・全一巻)

初 版

1985年6月25日

初 出

月刊「花とゆめ」昭和59年11〜13号
(併載分・昭和60年「別冊花とゆめ」春の号)

登場人物:パセリ・モーガン、エリザベス(リズ)、ジョジョ・シュミット、アルフレッド・H・アーボガスト、オードリー、イングリット、チャーリー、レイモンド・ヴィジョン、メリンダ、他

あらすじ:20××年、アメリカはニューヨークで、三つの爆弾事件が発生した。目撃者のいないその爆弾事件で、ただ一人、犯人を目撃したという言葉を残して、パセリ・モーガンは死んだ。パセリ・モーガンは十五歳の、スリを職業とした映画好きの少女だった。
 その目撃証言を確認するために、アーボガストは三度パセリ・モーガンのクローン人間を作るようEPIA(国際連邦科学情報局)に依頼した。ところがこの三人は別々の証言をし、その証言も実はパセリ・モーガンが死の直前に見た映画の内容で、事件に関するものは何一つ出てこない。
 そこで、アーボガスト刑事はEPIAに怒鳴りこんでいくのだが、クローン人間の記憶の70%は失われるから、それは当然の結果であると説明される。後になって作られたクローンの方が死後からの時間が経過しているだけ、オリジナルの記憶も失われやすくなっているはずだというのだ。
 結局、EPIAのESPセクションから、エスパー、ジョジョ・シュミットが派遣されることになる。ジョジョ・シュミットは、事件の犯人はエスパーであることを主張するのだが、アーボガスト刑事は、パセリ・モーガンの「見た」という証言の元にそれを否定する。その「見た」という証言に不審を抱いたジョジョは、クローン三人に面会に行くのだが、三人に役に立たなくなったクローン人間は処分されることを話してしまい、最初に再生された二人が逃走、ところが最後の三人目・エリザベス(リズ)だけが捜査に協力すると残った。(C)咲花圭良
 翌日、ジョジョはリズをデートと称して町に連れ出すのだが、そこでリズは町の看板のマリリン・モンローに不快感を示す。そしてリズが食事をしている間に、また犯人から予告電話がかかってくる。逆探知して居所を突き止めると、ドアを開けるとそこはもぬけの殻。犯人は捜査員の来る踏み込んだ瞬間テレポート(瞬間移動)したのだった。犯人はやはり、エスパーだったのだ。

コメント:日渡早紀といえば、今や「ぼくの地球をまもって」を代表作として知られるマンガ家になってしまったが、この「ぼくの地球をまもって」には、「記憶鮮明・東京編」という副題がつけられていた。その「記憶鮮明」の元ネタがニューヨークを舞台としたこの作品である。

 元ネタにしては元ネタの方がずっと短いが、普通そんなものかもしれない。だから短いゆえに目立たないし、今となっては、もしかしたら書いた本人も忘れていたい作品のうちの一つかもしれない。これが発表された当時、日渡にはデビュー作を含む早紀シリーズと、アクマくんシリーズしかなく、読者は作品の意外性に大いに驚かされたわけであるが(それでも「ぼくの地球…」の時の比ではないだろう)、今読めば、その表現のくささに驚かされるだろう。
 表現のくささ、というのは別の読み方をすれば、まだ若い日渡の情熱の表れと言いかえることもできるかもしれない。とりあえずこの頃の彼女は、作品はいくつかあり、早紀シリーズの精神性から一定のファンはもっていたものの、世間にポピュラーに知られるほどの代表作を持っていなかったから、若さも手伝って、彼女の若さが作品を走らせたのかもしれない。

 あつくては激しいSFミステリーは、作者自身の明るさも伴い、仁義くさくて石頭親父のアーボガスト、下町言葉で話すリズ、軽薄だけど誠実なジョジョ、と、未来の話なのにどこかレトロでさえある。(C)少女マンガ名作選
 読めば「勉強しました」ということがあちこちに見うけられるし、どこか規定枚数に無理矢理入れたという印象も否めない。ここまで書いてくると、作品をけなしているのか、それならリストに入れなければいいではないか、といわれそうだが、私は決してけなしているわけでもなんでもない。こういう段階も必要だし、また今となってはそれが新鮮にうつる時期も来たということなのだ。 
 今の日渡が書けば、もっと上手に書いてくれるだろう。しかし、この作品に描かれた情熱は、今の彼女には描けない。人間の汚さが描けていないのは欠点でもあるが、これがこの当時の日渡の武器でもあり魅力でもあったのだ。

 失われた記憶は必ず取り戻せる。我々は生きてからすべての経験の上に、今、生きている。

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