コメント:私はこの河惣益巳という作家は好きではなかった。
まず絵が嫌いだった。次にノリが嫌いだった。でもそんな「嫌い」を払拭してしまったのが、この「サラディナーサ」だった。
とりあえずフランスやイギリスならともかく、スペインを舞台にというのがかなり意外だった上に、女の子が主人公というのがさらに意外だった。男装の麗人と言う意味では「ベルサイユのバラ」と似ていなくもないが、オスカルとは違ってサラディナーサは立派に女と公言しているし、宮廷が絡んでいると言っても、貴族のお話、とは言いきれない。第一、女性が指揮をとり、才能があれば長にもなれる、その発想がいいではないか、キャリアウーマンみたいで。
この意外の塊みたいな話、実際単行本を見てみると、河惣によれば、これはどうも編集部からの企画持ち込みだったらしく、予定外に「作った」作品だったらしい。でも固定ファンには限りなく愛され、理解できない人には限りなく忌み嫌われた「ツーリング・エキスプレス」よりも、たぶん平等に愛されたに違いない。
表現は河惣らしくオーバーだし、やたらあついが、読んでるうちに、それも気にならずズルズルと引き込まれてしまう。きっとネタが、河惣の持つノリと絵柄にマッチしたせいもあるだろう。
10歳から16歳へ、17歳からさらに3年後に、サラディナーサはいい感じで時間を飛んで成長していく。上手く計ったものだと思ったら、どうも歴史の中に放り込んで、実際の出来事や実在人物たちの年齢と架空の人物たちの辻褄をあわせるために、そういう話展開になっているらしい。でも10歳から20歳までだらだらやられるよりも、そうやって時間を飛んでくれるほうが効果的、かえって、その時その時のおいしいところだけをサーッと描いて進むわけだから、もちろん面白いわけである。(C)少女マンガ名作選
まして出てくる男は皆ヒロインであるサーラを好き、しかも天才でいい男ばっかり。サーラの他に注目される若い女もいない。亡き人をしのぶ男たち、出生の秘密や悲恋、はたまた正体を隠して動く人物まであったりして、おいしいネタがてんこもり。またてんこもりが気にならない。ふと気付くとこのてんこもりのネタが、実は少女マンガの王道を貫く条件たちであったりするのだが、あまりに登場人物たちが激しすぎるのと、少女マンガらしくないので、どうも王道とは少し違う気もする。
多分に歴史の動乱の中で、本来主人公でなかったものを出してきて、主人公にしてしまい作品の中に盛り込んでいるというのも、この作品を新鮮かつ面白く感じさせている理由かもしれない。そこに少女マンガの手法を数えたところで、少女マンガの王道的手法というのは、実は少女マンガに限らず、面白い作品では必ず踏まえられるべき定石の一つ一つなのであるのだから、今更「少女マンガ的」を数え上げることが間違いかもしれない。
とりあえず、いろんな条件がかみあって、この作品はズルズル人を引き込んでしまう作品になってしまった。河惣は確か、日本の戦国ものも書いてたような覚えがあるのだが、この人はこういうあつい人物とそれがいるに見合った時代背景や設定を――つまり大河ドラマを書いてこそ、活きるのかもしれない。