少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:2000/04/19

作 品

サラディナーサ

作 者

河惣益巳

コミックス

花とゆめコミックス(白泉社・全9巻)、白泉社文庫全5巻

初 版

1 1988/5/25 2 10/25 3 1989/2/25 4 8/25 5 12/25 6 1990/2/25 7 4/25 8 7/25 9 10/25

初 出

『花とゆめ』(白泉社)昭和62年17号〜平成2年9号

登場人物:サラディナーサ、レオン・エウゼビオ(サラディナーサの父、フロンテーラ艦隊総領)、マシュー・リカルド・ドレイク、フェリペ二世、ドン・ファン(フェリペ二世の異母弟)、マリア・ルイーサ(サラディナーサ母、サーラを出産後他界)、ソラヤ(レオンの姉)、エルナン(ソラヤの息子)、マルティネス・サフラ(ソラヤ夫、レオンの師でもある)、サンタ・クルズ候、ドメニコス(画家・エル・グレコのこと)、エリザベス一世他

あらすじ:時は十六世紀後半のスペイン。スペインが王国として権勢を誇り、フェリペ二世の治世だった頃のことである。「レパント海戦」から帰艦した王弟であり英雄ドン・ファンは、一人の少女に出会う。少女は十歳、スペインの無敵艦隊の主力であり、スペインと契約関係にあった、海の一族「フロンテーラ」の長、「アンダルシアの黒獅子」とあだ名される、レオン・エウゼビオの娘だった。
 後日、ドン・ファンは、兄フェリペ二世とレオンの会見する場に乗り込み、サラディナーサとの婚約を申し出る。サーラは、ドン・ファンの初恋の人、マリア・ルイーサに生き写しだったからだった。フェリペニ世は、反対だったが、レオンは、サーラの「レオンより強かったら婚約していい」という条件をきき、剣で一戦交える。両者は引き分け、レオンとサーラはドン・ファンを婚約者として認めた上で、サラディナーサが17歳になるまでに、フロンテーラの一族全体に認められれば、本当に結婚を認めると約束する。

 ある日レオン・サーラ親子は市にでかけ、ある親子に遭遇する。サーラが王の使者にさらわれようとしたところを救ったのだが、その親子は、「悪魔の竜(エル・ドラゴ)」の異名を持つ英国海賊フランシス・ドレイクとその息子だった。
 サラディナーサはその後、この親子に海の上で再会する。一族の戦闘を見たいがために、一族の後ろを追ったのだが、そこに同じように進路を取る正体不明の船を発見。それがドレイク親子の乗る船だった。(C)咲花圭良
 サーラは闘いをしかけ、「フロンテーラ」を前にドレイク親子は逃げる形をとった。結果としてドレイクは逃げきり、サーラにとっては初陣が負け戦となる。二度と忘れえぬ屈辱であると同時に、一人の海賊になるという闘争心に火をつけられたのだった。また、ドレイクの息子マシューも、父親の船に同船し、逃げるしかなかったその時のことを屈辱として胸に抱くことになる。

 一年後、海軍に交じりフロンテーラと共に行動していたサーラの婚約者、ドン・ファンに、王よりの使者で、ネーデルランド鎮圧の命が下る。
 一族に認められるように働くことはおろか、ドン・ファンはサーラとひきさかれることになったのだ。

 五年後、十六歳の誕生日をひかえて、サーラは「フロンテーラの姫提督」「黄金(きん)のサーラ」と異名をとるほどの、天才指揮官に成長していた。王からの贈り物として、船と、護衛の若者が去年と同じく贈られたのだが、その年の護衛に選ばれた海軍士官「リカルド・ラ・セレナ」こそが、イギリスのスパイとしてもぐり込み、五年前、サーラに屈辱を追わせたドレイク親子の息子、マシューだった。
 マシューは正体を明かさないまま、サーラの護衛を勤めることになる。
 その護衛の中で、フェリペ2世とレオンの壮絶なる確執は、フェリペ王の愛人だったマリア・ルイーサをフェリペはレオンに嫁がせた挙句、嫁がせた後も寝取り、争った挙句レオンの右目を奪って、サラディナーサを自分の子供だと思い、何度も取り返そうとしたことにあったのだと知るようになる。
 もちろんサーラはその才からレオンの子に間違いはなかったが、王の執念は激しく、やがては、最強の艦隊フロンテーラとスペイン王国の決裂にまで導くことになるのだった。

コメント:私はこの河惣益巳という作家は好きではなかった。
 まず絵が嫌いだった。次にノリが嫌いだった。でもそんな「嫌い」を払拭してしまったのが、この「サラディナーサ」だった。
 とりあえずフランスやイギリスならともかく、スペインを舞台にというのがかなり意外だった上に、女の子が主人公というのがさらに意外だった。男装の麗人と言う意味では「ベルサイユのバラ」と似ていなくもないが、オスカルとは違ってサラディナーサは立派に女と公言しているし、宮廷が絡んでいると言っても、貴族のお話、とは言いきれない。第一、女性が指揮をとり、才能があれば長にもなれる、その発想がいいではないか、キャリアウーマンみたいで。
 この意外の塊みたいな話、実際単行本を見てみると、河惣によれば、これはどうも編集部からの企画持ち込みだったらしく、予定外に「作った」作品だったらしい。でも固定ファンには限りなく愛され、理解できない人には限りなく忌み嫌われた「ツーリング・エキスプレス」よりも、たぶん平等に愛されたに違いない。
 表現は河惣らしくオーバーだし、やたらあついが、読んでるうちに、それも気にならずズルズルと引き込まれてしまう。きっとネタが、河惣の持つノリと絵柄にマッチしたせいもあるだろう。

 10歳から16歳へ、17歳からさらに3年後に、サラディナーサはいい感じで時間を飛んで成長していく。上手く計ったものだと思ったら、どうも歴史の中に放り込んで、実際の出来事や実在人物たちの年齢と架空の人物たちの辻褄をあわせるために、そういう話展開になっているらしい。でも10歳から20歳までだらだらやられるよりも、そうやって時間を飛んでくれるほうが効果的、かえって、その時その時のおいしいところだけをサーッと描いて進むわけだから、もちろん面白いわけである。(C)少女マンガ名作選
 まして出てくる男は皆ヒロインであるサーラを好き、しかも天才でいい男ばっかり。サーラの他に注目される若い女もいない。亡き人をしのぶ男たち、出生の秘密や悲恋、はたまた正体を隠して動く人物まであったりして、おいしいネタがてんこもり。またてんこもりが気にならない。ふと気付くとこのてんこもりのネタが、実は少女マンガの王道を貫く条件たちであったりするのだが、あまりに登場人物たちが激しすぎるのと、少女マンガらしくないので、どうも王道とは少し違う気もする。

 多分に歴史の動乱の中で、本来主人公でなかったものを出してきて、主人公にしてしまい作品の中に盛り込んでいるというのも、この作品を新鮮かつ面白く感じさせている理由かもしれない。そこに少女マンガの手法を数えたところで、少女マンガの王道的手法というのは、実は少女マンガに限らず、面白い作品では必ず踏まえられるべき定石の一つ一つなのであるのだから、今更「少女マンガ的」を数え上げることが間違いかもしれない。
 とりあえず、いろんな条件がかみあって、この作品はズルズル人を引き込んでしまう作品になってしまった。河惣は確か、日本の戦国ものも書いてたような覚えがあるのだが、この人はこういうあつい人物とそれがいるに見合った時代背景や設定を――つまり大河ドラマを書いてこそ、活きるのかもしれない。

 まつげが許せないとか、髪が多すぎるとか言わずに、出来たら一度手にとってもらいたい。文庫になっているから、ある程度の評価は受けた作品なのだ。
 ただ一つ、誰かが書く前に書いておくと、海の女なのだから、絶対海焼けしてるはずなのだ。白いはずはないのだが、美少年はトイレに行かないというマンガの世界の法則と同様、ヒロインも日焼けしないのだと、皆で申し合わせておこう。
 

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