少女マンガ名作選作品リスト

担当者:飯塚  作成日:2000/7/20

作 品

3丁目のサテンドール 

作 者

清原なつの

コミックス

りぼんマスコットコミックス(集英社・全一巻) ※短編集

初 版

1981年12月19日

初 出

りぼん 55年10月号

登場人物:大聖寺忠尚、“サテンドール”のマスター、 青菜、忠尚の祖母、家庭教師の先生

あらすじ:
 大聖寺忠尚は、祖母が理事長を勤める大聖寺学園の高校生。 見るからに『ぼっちゃん』の彼の周りの席は、祖母が決めた学校則により、学力優秀、眉目秀麗な女生徒で 固められている。通学はもちろん運転手付のリムジン。下校途中の買い食いなど、もってのほか。 今日も3丁目のサテンドール前のたこ焼きの屋台を脇目に家路を急がねばならない。 たこ焼きひとつ自由に食べられない、僕は悲しい籠の鳥・・・。(C)飯塚
 3丁目のサテンドールのマスターは、月・木曜日だけ喫茶店を閉めて、店の前にたこ焼きの屋台を出す。 そんな彼の元に、家出少女の青菜が転がり込んできた。ある日、いつも通り青菜が店を手伝っていると、どうしても たこ焼きを食べたい思いを吹っ切れない忠尚が、授業を抜け出してやって来る。その日はたこ焼きの屋台は 休みだったが、忠尚は特別にたこ焼きを作ってもらった。感激にむせぶ忠尚、勢い余ってヘアスタイルも マスターと同じリーゼントにして家に戻った。「自由の味=たこ焼き」がどうしても忘れられず、軽いノイローゼになる忠尚。 そんな彼に祖母が譲歩し、今度の誕生会は「たこ焼きパーティー」にすることになった。 大聖寺のお屋敷に招かれたマスターと青菜。タキシードを着て、華麗なテクニックでたこ焼きを作るマスター、 そしてマスターと青菜の意外な素性が明かされる・・・?

コメント:
 コメディの短編集です。(表題作のみコメントを付しました。)他の収録作品は「鶴姫哀話」――清原版“鶴の恩返し”、「流水子さんに花束を」 ――とろい女の子が実はすごい記憶力の持ち主だった話(“アルジャーノンに花束を”に触発された作品 らしい)、「なだれのイエス」――おなじみ“花岡ちゃんシリーズ”ハゲの簑島さんが学内でなだれに あって行方不明、リフトを作る運動に発展、の3作品です。いずれも彼女らしい笑いを誘う作品。

 しかし清原なつのを侮れないのは、笑って終えられない作品を描く所。どこまでが本気でどこまでが冗談 なのか――。特に「なだれのイエス」。大学構内でなだれに合って行方不明、しかもリフトを設置する学生 運動まで起こってしまう。「まじ?」。そこまで話が大きくなるか?何かあるはずだ、きっと・・・。と思って しまう。深読みしたいけど、ここまでふざけてるのに深読みしていいのか、ここは単純に流す所なのか―― 作品との距離をどうとったらいいのか良く分からない、と感じることもあるんです。
 でも、私は何の躊躇も無く深読みして彼女の作品のとりこになった口ですので、この「3丁目のサテンドール」 でも、そもそもの題名「サテンドール」には「主人公たちは飾り物の人形のようだった」事を示唆する意味 があるとか、「かわいがりすぎて逃げた」とか「レェスのドレスを着ていたらマラソンレースに出られない」 とか「幸福の時は一瞬なんだ、だからこそ美しい」とかの一連の言葉をそのまま受け取ったものです。
 デビューのきっかけになった「チゴイネルワイゼン」(りぼん新人漫画賞佳作受賞・「飛鳥昔語」に収録) を読むと、彼女がどの位傾倒してマンガを描いているのかが伺われます。マンガを描くことは自分を切り売り すること――そんな自分の真摯な態度を別の自分がおちょくって、結果的に笑いでその真意を包み隠してし まう、シニカルでプライドのある漫画家、そんな風に私は受け取っているんですが、そればっかりは読み手 の取り方次第かもしれません。
 もっともこの作風は次第に昇華されて行って、デビューした『りぼん』の本誌とその増刊、その後 『りぼんオリジナル』『ぶ〜け』へと掲載誌を移って行くに連れて、ストレートな表現が薄れていく分、 それを包む笑いも減って、その代わり、状況描写が主体となった象徴的な作品が主流になって行きます。 せつなさが際立った、心に染みる作品を描くようになっていきます。(C)少女マンガ名作選
 しかし、作風が変化して行っても、彼女の作品には初期から“脱皮、脱出、自立、自己変革”と言ったよ うな一貫したテーマがあります。この「3丁目のサテンドール」でも、主人公の忠尚を始め、家出少女の 青菜もサテンドールのマスターも、自分が置かれていた境遇に疑問を持って、周りの言いなりではなく自分 の意志で生きる事を望み、飛び出していきます。それをそのまま描いたのでは、根性くさいマンガになって しまうんですが、清原なつのの持ち味は、それをまっすぐ描かない所、コメディにしてしまう所、やっぱり 「ユニークな表現」と言うしかないようです。
 そんなテーマでマンガを描き続けている彼女の「少女」の描き方は絶品だと思います。うつむき加減で 下がり眉で「への字の口」の少女たちは、あくまでもはかなげ。それなのに妙に現実感があり、時には 生生しささえ感じさせます。清原なつのが描く少女たちは、いつの場合でも世間から何らかの意味で、 はじかれている。そんな状況を変えようとする彼女たちは、はかないままで終るようなことはないしたたか さを内に秘めているのです。

 今回採りあげた「3丁目のサテンドール」は初期作品で、このコミックスを始め、『りぼんマスコットコミックス』 の清原作品は、今では古本でも手に入りにくい状況です。いくぶん手に入れやすい事から言っても、 作品の完成度から言っても、『ぶ〜け』に掲載された作品の方が代表作と言えるのかも知れません。 が、今回は、初期作品の独特の笑いとテンポのいいコマ運びに執筆者の思い入れがあるものですから、 あえてこの作品を採りあげてみました。なかなかまとまってる作品で、初期作品群の代表作だと思います。

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