コメント:「あねさんは委員長」「おかあさんは刑事」などのコミカルな作品とは裏腹、こなみのシリアスなマンガ系統のはじめが、この「KAMUI」であろうかと思われる。
「あねさん…」の時と比べると、絵柄がとても淡白で整理されている、つまりキレイになっているのだが、そのクールな絵柄に比して、話は非常に重い。(C)少女マンガ名作選
それでもこなみ自身の持つ独特の軽快さ、と、それに隠されたシャイな部分が、微妙な繊細さを作品全体に生み出していて、後半以降に展開されるハードな事件展開が、難なく理解され、心の中に入ってくる。
一番描きたかったのは「感情」で、神已の「感情の変化」に着目してほしい、というこなみの注文からもわかるように、この話は超能力が激しい戦いを生むのでもなく、世界を動かす大事件があったわけでもない。取り違えられた子供たちの、不幸な生い立ちが遭遇するエピソードが描かれているだけなのだ。それなのに、ハードな質感が、読み終えた時に残る。ページ数にしてわずか300ページにも満たない、通常コミックスでも二巻にあまる長さであるが、こなみ詔子の代表作としてカウントされてしかるべき作品である。
この作品の後、こなみは「KAMUI」で登場させた弘を「コインロッカーのネジ」などの作品にも登場させている。「コインロッカー…」の弘は、既に高校生ではなく、社会人であるが、そこに登場する弘によって、この「KAMUI」の事件が、どれほど大きな心の傷を生んだか、ということを理解させられるのだ。
「KAMUI」がお気に入りであれば、一度、こちらの方もご参照いただきたい。
個人的には「おかあさんは刑事」が一番好きなのだが…(くだらないと言われようと、低次元だと言われようと。)確かにこなみの描く作品には女々した女性というのはあまり存在しない。「恋愛もの」という範疇でくくれば、作品に男女の恋の甘やかさ、というのは期待できないかもしれないが、一系統の作家として、読んでおいて損はないだろうと思う。
ただ、一言つけ加えるなら、「KAMUI」の中のおまけのマンガ、「それゆけ、カムイ君」は、よしてほしかった。(こういうのを見るたびに、こなみってすごいシャイな人に思えるんですけど。)