少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:1999/9/19

作 品

KAMUI――神已――

作 者

こなみ詔子

コミックス

MARGARET COMICS ワイド版(集英社・全二巻)

初 版

1 平成元年9月30日、2 10月30日

初 出

マーガレット平成元年No.4からNo.15

登場人物:八坂弘(やさかひろむ)、小川神已(おがわかむい)、木鳩(こばと・神已妹)、小川紫(神已母)、神已父、弘の両親、叔父他。

あらすじ:八坂弘の両親は、二人で北海道旅行にでかけ、その飛行機事故で亡くなった。一人になった弘(16)は、シンガポールに一緒に行こうという叔父の誘いを断り、父の古くからの友人だという、小川の家で世話になることにする。
 ところが行った先で着いた早々、会ったその家の同じ年の息子、美少年神已は、弘の死んだ母親と顔がそっくりだった。驚く間もなく、突然気配もなく窓ガラスが割れた。神已の母紫の話では、この家によく起こるポルターガイストだという。
 家に入った弘は、その家の娘木鳩と会う。彼女と話している時に、神已が通りかかる。転校する学校のことで弘は神已に相談を持ち掛けるのだが、彼はなぜか冷たかった。そして、「"神已"はあんたじゃないか…!」という神已。何のことかわからない弘は、神已に問いただそうと、腕を掴んだとたん、「放せ!」という神已の声と共に、また窓ガラスが割れてしまう。(C)咲花圭良
 神已の学校に転入し、つきあううちに弘は、神已が陰湿な性格の超能力者であることを知る。そしてある夜、神已と弘は出産の時、病院のミスで入れ違えられてしまったという事実を知らされたのである。神已の子供の頃からの呼吸器の疾患と、母親に「本当の自分の子供ではない」という思いが、神已の精神に負担をかけ、超常能力を生み、性格をゆがませる原因となってしまったらしいのだが…。

コメント:「あねさんは委員長」「おかあさんは刑事」などのコミカルな作品とは裏腹、こなみのシリアスなマンガ系統のはじめが、この「KAMUI」であろうかと思われる。
 「あねさん…」の時と比べると、絵柄がとても淡白で整理されている、つまりキレイになっているのだが、そのクールな絵柄に比して、話は非常に重い。(C)少女マンガ名作選
 それでもこなみ自身の持つ独特の軽快さ、と、それに隠されたシャイな部分が、微妙な繊細さを作品全体に生み出していて、後半以降に展開されるハードな事件展開が、難なく理解され、心の中に入ってくる。
 一番描きたかったのは「感情」で、神已の「感情の変化」に着目してほしい、というこなみの注文からもわかるように、この話は超能力が激しい戦いを生むのでもなく、世界を動かす大事件があったわけでもない。取り違えられた子供たちの、不幸な生い立ちが遭遇するエピソードが描かれているだけなのだ。それなのに、ハードな質感が、読み終えた時に残る。ページ数にしてわずか300ページにも満たない、通常コミックスでも二巻にあまる長さであるが、こなみ詔子の代表作としてカウントされてしかるべき作品である。

 この作品の後、こなみは「KAMUI」で登場させた弘を「コインロッカーのネジ」などの作品にも登場させている。「コインロッカー…」の弘は、既に高校生ではなく、社会人であるが、そこに登場する弘によって、この「KAMUI」の事件が、どれほど大きな心の傷を生んだか、ということを理解させられるのだ。
 「KAMUI」がお気に入りであれば、一度、こちらの方もご参照いただきたい。

 個人的には「おかあさんは刑事」が一番好きなのだが…(くだらないと言われようと、低次元だと言われようと。)確かにこなみの描く作品には女々した女性というのはあまり存在しない。「恋愛もの」という範疇でくくれば、作品に男女の恋の甘やかさ、というのは期待できないかもしれないが、一系統の作家として、読んでおいて損はないだろうと思う。

 ただ、一言つけ加えるなら、「KAMUI」の中のおまけのマンガ、「それゆけ、カムイ君」は、よしてほしかった。(こういうのを見るたびに、こなみってすごいシャイな人に思えるんですけど。)

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