コメント:小さな小さな家庭の中に、大きな大きな運命がある。それに関わってしまった彼ら自身は、たいして大事という自覚もないままに、一人の人間として悩み傷つき、そして生活している。
くらもちふさこという人の作品をあまり固く語ってしまうと、作品自体の持つ雰囲気をぶっ壊してしまいそうなので、止めた方がいいと思う。おそらく書いている彼女自身も、ただの一家庭に見まわれている、もしくは一人の青年や一人の女の子に見舞ったとんでもない運命、だなんて自覚もなく、ただただ、作品を動かしているような気がするのだ。そこにこれといったテーマもなく、主題もプライドさえないような気がする。
何があるのか。愛がある。そこには女の子達に欠けてはならない、等身大の恋愛がある。(C)少女マンガ名作選
ただそれだけなのだ。でも、それだけでいいと思う。なぜなら、それがくらもちふさこという少女マンガ家なのだから。
かえって、事件らしい事件のない話を書くということの方が時としてとても難しいのだ。だって、事件にロマンがあるのは当然だ。だから事件なのだから。それも、そういう事件を起す人たちの物語なのだから、人物だって魅力があって当然だ。でも、くらもちは違う。主人公ターコは違う。どこにでもいる女の子たちに、ロマンをからませて、そして当たり前のように生きさせてしまう。恋を、させてしまう。
今みると、故多田かおるの絵にとても似ているが、多田かおるの方が影響されたというのが正しいのだろう。少女マンガは、色んなジャンルに大別できると思うが、「愛や恋しか書かない」のを仮に「正当派」と呼ぶなら、この人もその中に入れていいと思う。何度も何度も繰り返される、つまりは恋愛主題の物語を、飽きさせないこの人の作風は、読む側が主人公たちの「高校生」という時を追い越しても、等身大ゆえか、あるいは淡白なゆえか、今もなお、新鮮だ。