少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良 作成日:2000/11/04

作 品

マルチェロ物語(マルチェロストーリア)

作 者

樹なつみ

コミックス

花とゆめコミックス(白線社・全8巻)、白泉社文庫全4巻

初  版

11982/4/25 2 12/22 3 1983/5/24 4 1984/1/24 5 5/24 6 1985/1/25 7 5/25 8 9/25

初  出

マルチェロ物語

 月刊「LaLa」S56年4月号

モード・フェスタ

 月刊「LaLa」昭和56年9月号

黒い一角獣

 月刊「LaLa」昭和56年11月号〜57年1月号

マンマ・ミーヤ

 「LaLa増刊号」昭和57年2月号

アメリカンガール

 (以下すべて月刊「LaLa」掲載)
 昭和57年5〜6月号

空色のパスカル

 昭和57年8月号

遥か青き時代より

 昭和58年2〜3月号

マルチェロ物語

 昭和58年5月号〜59年6月号

(マルチェロ物語・外伝)

ByeByeダミー  昭和60年1月号

ノルマンディ・グラフィティ

 昭和59年11〜12月号

天使になる日

 昭和60年1〜5月号

登場人物:マルチェロ・マルロウ(マルチェロ・レンツオーリ=女装のトップモデル)、イアン・ポール・デモルネ(フランス・オートクチュール界の巨匠)、イアン・シューデ(マルチェロの親友)、マリク・エーメ、ヴァレリィ・エドワーズ(アメリカの女優)、ガブリエル・ルパージュ(デモルネ秘書)、ジャン・テーネ(デモルネ側近)、ギイ・バターユ(後にマルチェロのマネージャー)、パスカル・F・デモルネ(デモルネ弟)、マダム・トゥラン(デモルネの師)、フランカ・レンツオーリ(マルチェロ母)、シルヴァーナ・ラトスキー、ジュン・ホンダ、ジュール
 フィリアン・ドニ、オディール・プレゲ、マリネッタ・トリッキオ、スーゴ、マダム・ベロニカ他

あらすじ:女装の美少年モデル゛マルチェロ゛は、十五歳のイタリア人で、フランスオートクチュール界の巨匠、イアン・ポール・デモルネに見出され、今やデモルネの秘蔵ッ子として押しも押されもせぬ地位を確立していた。売れっ子として活躍しながらも、束縛だらけの生活にたえられず、デモルネの元を抜け出して旅行中の町の中をうろつき、デザイナーの卵、イアン・シューデと出会う。
 マルチェロの態度や言葉使いの悪さに、最初イアンは度肝を抜かれるが、イアンの邪気のない、素直な人柄、また、マルチェロのモデルとしての素質を誉める彼に、マルチェロは次第に心を開くようになる。(『マルチェロ物語』)
 マルチェロは、その後、ファッション誌の記者に誘われて行った、数日後、無名のデザイナー仲間と場末のディスコで行われる予定のファッションショー会場でイアンと再会、マルチェロはイアンがパリに出てきていて、小さなブティックのおかかえデザイナーになっていることを知る。そこで、ディスコで行われるファッションショーは、何とか一人、本職のモデルを雇うことができたが、後はディスコのダンサーたちに頼むことになっているということを知らされた。初めての友といえるイアン、そして彼の才能に、服をみせるモデルの一人として手伝いたいと思うのだが、マルチェロはデモルネと一年の専属契約を結んでいて、イアンの手伝いはできない。
 ところが本番の直前になって、唯一のモデルが急性盲腸炎で倒れてしまう。若い連中が自費でやるショーとだけあって、記者連中も多数会場に来ているのに、服を「見せる」人間がいないと話にならない。みんなで困っているのを見かねて、とうとうマルチェロはモデルの代役を申し出る。イアンは専属の彼が契約を破ってまでの犠牲の上にショーを成り立たせるつもりはない、というと、自由だったノルマンディーという田舎の不良少年だった彼が、デモルネと出会ってすべてを手に入れたつもりが、実は束縛だらけの毎日となってしまい、いつも、いつかどうにかしてその束縛から逃れ反逆したいと思っていた、今回がいい機会だったからと、結局ステージに立つことになる。(C)咲花圭良
 イアンの服を見せることには成功したが、仕事の途中で会場に立ち寄ったデモルネに、専属契約を破ったことを知られ、結果マルチェロはデモルネの怒りをかって解雇されてしまう。そして、その会場でイアンはデモルネから賞賛されたため、注目を集めるが、仲間からは妬みのためにつまはじきにされてしまう。解雇されたマルチェロも、後悔に苛まれるが、やがてフリーモデルとしての道を模索するようになり、マネージャーを申し出たギイと組んで、デモルネのショーのオーディションを受けに行くことになる。(『黒い一角獣』)

コメント:今や「OZ」「花咲ける青少年」「八雲立つ」など、数多くの代表作を持つ樹なつみが、無名時代を経てやがて注目を集めるようになった、その作品が、この「マルチェロ・ストーリア」である。新人でなければ、長編ものとして一気にかけぬけたかもしれないほど、細部に設定が施されているこの作品は、当初、シリーズもののような様相を呈して始まった。そして、それまでのすべての短編で描いてきたキャラクター設定を集約し、大きく展開したのが、樹にとっても初の長期連載となった、マリクとのストーリーであった。(C)少女マンガ名作選
 マリクとのストーリーが終了し、マルチェロ本編が書き終わっても、外伝という形で三作(コミックスにして二冊分)書かれているから、樹がどれだけこの作品の中で作ったキャラクターに愛着を抱き、設定を組んでいたかが測り知れるというものである。
 ちなみに、こうして短編シリーズのようにしてスタートし、やがて長編を描くようになる、という経緯は、「LaLa」誌上では特に珍しいわけでもなく、清水玲子もジャックとエレナのシリーズで、やまざき貴子がムシシリーズで、長編を書くように到っている。いずれも、押しも押されぬ人気作家になった人達である。 

 かつて人に勧める時、コミックスで4巻から6巻に相当する長編部のマリクのストーリーを読めば、それでOKだといっていた。もちろん、それまでのエピソードがなくても十分読める。が、それまでのエピソードを読んでいたほうが、キャラクターの語る内容に深みが出て、理解もよい。
 考えてみれば、それまでのストーリーは、キャラクターそれぞれの個性を描きわける段階であり、設定の部分なのだから、本当は見逃してはならないのだ。
 マリクというキャラクターのみが、ここで初めて出てくるが、彼女がモデルとして出世するのには、デモルネの弟パスカルとのエピソード(「空色のパスカル」)は欠かせないし、「事件」では、それまでの脇人物たち、たとえば、親友イアンとのかかわり(「マルチェロ物語」「黒い一角獣」他)や、以前マルチェロに恋焦がれた女優ヴァレリィとの、その恋のエピソード(「アメリカンガール」)、デモルネの過去(「遥か青き時代より」)、マネージャー・ギイの野望(「黒い一角獣」他)、そして、マルチェロの人を愛せない心のいきさつ(「マンマ・ミーヤ」他)を知っておけば、話はぐんと広がっていき、ストーリーが個々のキャラクターのもつ心理や背景によって、絡まり、動いていったことが、納得できて面白い。

 母親が、男にだらしなく、果てに男と無理心中してしまったがために、17になっても人を愛するということができなかったマルチェロ、それでも人をひきつけてやまず、またそれゆえに悲劇を生んでしまう。
  幼くして母をなくし、親戚の元に身を寄せ、そこを逃げだし、貧しさからの束縛から逃れるために始まった彼自身の放ろうは、今度は自由になるために求めた豊さと、業界の軋轢に束縛され、そして、愛に束縛されようとした。
 “相手を思うが故に、傷つけるのが恐い。”
 そんな愛による心の束縛で、無理心中した母親からの呪縛から逃れるように、また、彼自身、初めて愛した人からさえ去ることを選ぶ。
 何かから自由になろうとし、結局、何からも自由になれない。
 だから、「いつか終わる」と思いながら、人とも、場所とも、係わっている。
 ストーリーが終わった後のマルチェロを、誰も知らない。ただ、樹は、人と深いかかわりを持たず、求めながら、結局そこにはいつけなかった少年を、最後、「人を愛する」という「成長」にまで達してから、まるでそこだけ切りとって駆け抜けたように描いている。
 この少年は、特別でありながら、今のどこにでもいる少年たちの、心の中に、静かに潜んでいるようにさえも思える。

 「初期」樹作品だけあって、絵はつたない。
 絵は拙いが若さがある。私が樹を知った最初の作品は、この「マルチェロ」だったが、当時は今の絵を知らないから、その拙ささえ気にならず、熱さと勢いに、全編を通して引きつけられた。
 「特別な」という設定は確かにあるけれども、超能力も、王様も、アンドロイドも格闘シーンも、つまり、「なんかすげえぞ」というスケールのでかさが設定にはない。
 だから、人としてより身近で、そして、今ふりかえって、彼女の持つ独特の人を引きつける「情熱」は、この頃から芽吹き、より熱かったのだと感心する
 個人的には「マルチェロ」が全く登場しない外伝「天使になる日」が一番好きである。コミックスにすれば一冊に納まってしまいそうな長さであるけれども、秀一の作といってよいと私は思う。

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