コメント:野間美由紀の代表作といえば、「パズルゲーム・ハイスクール」、あるいは、「ジュエリー・コネクションシリーズ」があげられるだろう。どちらかといえば、前期の作「パズルゲーム・ハイスクール」の方が知られているかもしれない。どちらもミステリーシリーズで、また、この作品「ナット・クラッカー」も例にもれずミステリー作品である。
出版社の案内にもある通り、「ナット・クラッカー」は、1987年に一度、花とゆめコミックスで刊行され、野間がレディース分野に移るにしたがって絶版、しかし好評のために再販がのぞまれ、文庫ではなくレディースコミックスとして刊行しなおされた、珍しい作である。
長編というよりは、中編作品というに適切な長さで、もともと「パズルゲーム・ハイスクール」もほとんど一話完結で書かれていたから、この人の作品の中では長い方に入るのかもしれない。
息もつかせぬ、予想を裏切る展開で、それまでの野間作品に比べると、品もよく、ちょうど一つの映画を見るようなコンパクトにまとまった作品で、復刊の声がのぞまれたのもわかるような気がする。現に私も一度しか読んでいなかったが、強烈に印象に残っていて、最近になって探したほどなのだ。(C)少女マンガ名作選
この作品のそうした「息もつかせぬ」を支えているのが、主人公「ビリー」の、頭の回転のよさ、そして、真実に二重三重の網をかけた、構成であろうと思う。が、ミステリー作品に慣れてくると、このビリーの性格が、いかにもミステリーのなぞを解いて行くステレオタイプに見えて、個性というか面白みにかけるというのも確かなのだ。5回連載の枠の中で作ったためか、あるいは、展開を重視すれば、こういうキャラクターになるということかのどちらかで、本来仕方のないことかもしれない。
その「性格の面白みのなさ」のために、おちで見せるビリーの感想も「ありきたり」になってしまい、詰めが甘い、というか、描き方にも問題があるかもしれないが、質は高いと思うものの、どうもB級よりという感が否めない。
それでも、少女マンガの枠の中でこれだけ描ききるのであるから、読むだけの価値もあるだろう。当時は「名探偵コナン」も「金田一少年の事件簿」もなかった。いわゆる「さきがけ」でもあったのだ。
野間美由紀の作品は、全体的に、どちらかというと、どれもB級の感がある。なぜかときかれても、これという答えは出てこないが、おそらくキャラクター設定の甘さというか、キャラクターの人物像の深さにかけるのが大きいような気がする。
出世作「パズルゲーム・ハイスクール」でも、作品の展開自体はそこそこよい線であったのに、最後かなりだれたのは、長期でひっぱるには登場人物の個性がいまいちというのがあったかもしれない。暴くときの表現や表情も、かなりマンネリだった。私などは、大地が中年太りし始めたころからうんざりし始め、後半は全く勧めない。が、前半はいけるので、また機会があったらお試しいただきたい。
しかし私は、この人は、ミステリーであるけれども、レディースが出てきた時、酒井美和と並んで(アシスタントをしていたらしい)、絶対にレディースに移る人だと思っていた。まあすけべな表現があるというのもあるけれども、ミステリーを描くのに、男女のそれを抜かして描くのではなかなか難しいし、それは事件をしかける陰謀やなんかのおいしい材料でもあるからだ。普通の少女マンガ枠では、それは少し苦しかった。
「ナット・クラッカー」は、本当にその過渡期にふさわしいグレードの作品で、ここから「ジュエリー・コネクションシリーズ」を読んで行くと、この人の作家としての展開がわかりやすくてよいだろう。
全体としては高く評価できなくても、一場面や展開が、ポツリポツリと頭に残っていつまでも忘れさせない、不思議な魅力を持つ作風の人でもある。