作 品 | 夢みる惑星 | 作 者 | 佐藤史生 |
コミックス | 小学館プチフラワーコミックス「夢みる惑星」全四巻 小学館漫画文庫「夢みる惑星」全三巻 |
初 版 | コミックス第1巻1982.05.20、第2巻1982.12.20、第3巻1983.07.20、第4巻1984.07.20 |
初 出 | プチフラワー(小学館)1980年春の号―1984年5月号 |
登場人物 |
イリス | 主人公:王の第1子、幻視者に多く見られる銀髪に銀の瞳。 |
エル・ライジア | 最後の幻視者で、イリスの師。終末の災厄を予感し、魂の拠り所としての大 神官の必要性を痛感している。 |
モデスコ | アスカンタ国王でイリスの父、イリスに王国を継いで欲しいと望む。 |
ルキソーヤ | イリスの母、モデスコ王とは兄妹と知らずに恋に落ち、その事実を知り、イリスを身ごもったまま隠遁する。 |
タジオン | 王の第2子、イリスの異母弟、母の苦しみと婚約者フェーベがイリスに憧れていることから、イリスに対抗心を燃やす。 |
フェーベ | 東イスタンハルの公女、タジオンの婚約者。イリスに憧れている。 |
カラ | 砂漠の民ベニ・アスラの若長、一族を滅ぼされ奴隷の境遇となり、主殺しの罪を着せららたところをイリスによって助けられ、イリスの無二の親友となる。 |
シリン | 有名な流れの舞姫。神殿の巫女を母に持ち、その舞には未分化で強力な幻視能力が秘められている。 |
ズオー | 行政長官で国務大臣。王家の流れをくむオリハン大公家の次男。かつてルキソーヤ王女を思慕しており、イリスを支援することとなる。 |
ゲイル | 暗殺を生業とするモロー一族の最後の一人。暗殺によって失いつつあった心をイリスに救われ、以後イリスを守護する。 |
ラカン | 武器の密造もしている科学者集団タウリシュの導師、異端の扱いを受け谷を出た科学者。 |
オッタル | 谷の科学者、観測の結果から終末の大災害を予測する。 |
ジオ | 谷の医師。イリスの心と身体を案じる。 |
あらすじ |
神々の子らが聖船に乗り来たり、新しき約束の地に築いたという聖都アスカンタ。アスカンタを中心に繁栄する人類。しかし、惑星唯一のこの大陸は変動期にあった。 モデスコ王と妹姫ルキソーヤとの間に生まれ、母とともに隠れ住んでいたイリスは、14歳の時、母の死に伴い「谷」に引き取られることとなる。「谷」は、各地の神殿を統括する宗教の中心であり、また、世祖アスランの定めにより科学と幻視者(心話=テレパシーを操ることのできる人)が封じられていた。最後の幻視者であるエル・ライジアは、大変動を予感し、人々の心の拠り所として、過去数百年来該当者の無かった大神官(幻視者の中で能力の強い者が就任する)の復活の必要性を感じていた。幻視能力の無いイリスを大神官に仕立てよう、というエル・ライジアと反発するイリス。しかし、わずか数ヶ月の触れ合いの後、谷に落ちた翼竜の仔を助けようとしてエル・ライジアは死に、イリスは彼の志を継ぐ決意をする。(C)綏子 時は過ぎ、イリスの成人と大神官就任も間近になった頃、「谷」の科学者オッタルは、観測結果から、アスカンタを中心として、人類を滅亡させかねない大陸の大変動がおこる、と予測する。しかもその大変動までのタイムリミットは早ければ1年であると。大変動を避けるためには、未開の蛮地・荒地への移住しかなく、それも急を要した。世祖アスランによって科学は禁じられており、人々に大災厄が起こる訳を理解させることもできず、イリスの父モデスコ王の政治手腕を期待する「谷」とイリス。しかし、モデスコ王は急死し、イリスに反感を持っている弟王子タジオンが王に即位する。かくなる上は「谷」のお家芸権謀術数の限りを尽くし、人々を移住させるしかない、と、タジオンに反駁しながらもすべてを背負い込み、人々を移住させるイリスと「谷」の神官たち。タジオンの婚約者フェーベ、ベニ・アスラの若長カラ、国務大臣ズオー、舞姫シリンの助けを借りて、策は徐々に効果を上げ、底辺に属する人々や周辺の諸族から移住が始まる。これに周辺国のイスファの思惑がからまり、暗殺(未遂)あり、戦ありの展開で物語は進行する。ついに、「谷」の科学者オッタルとタウリシュのラカンは協力し、被害を留めるために「谷」を雷管として爆発させる方法を画策する。人々の心を救うため「谷」にとどまろうとするイリスは… |
コメント |
「竜の夢その他の夢」(新書館:ペーパームーンコミックス)に秀逸なあらすじが載っていますが、かなりネタバレも含まれていますので、私なりにまとめてみました。しかし、この作品の魅力の半分も語れていないところが悲しいです。 とにかく、ネームがすばらしい。「人々が救いを求めて神殿の階段をかけのぼってくる…、そのとき、百万の美も千万の富ももはやチリに等しい(エル・ライジア)」「愛するにはあまりに傷つきやすく、不安にみち、そのことで逆におまえを傷つけてやまないのだ。ぼくら生きとし生けるものは!(エル・ライジアの死をみて:イリス)」「あの音が聞こえないか? 音だ。大地がゆがみきしんでたたらを踏む音――(イリス)」「あれがみかけどおりの美しい星空であったなら! だが、あれは地上の灯だ。その運命にむかってゆっくりと動き出した地上の――(翼竜に乗ってカラと夜空を翔けるながら:イリス)」「親もいらぬ、子もいらぬ、天と地のあいだに…、おまえとおれと、ただ――、二人だ――(臨終の際にルキソーヤの幻影を見ながら:モデスコ王)」コミックスの第1巻だけでも、まだまだあります。古代の雰囲気にこのネームがピタリとはまります。 次に絵がすばらしい。作者は実はジーザスクライスト・スーパースターを見て、そんなコスチュームの登場人物を描きたかった、という風に「竜の夢その他の夢」で述べておられますが、実際、この雰囲気が作品世界を盛り上げています。また、翼竜に乗って空を飛ぶ、その場面とその飛翔感。これがまた、良いのです。 そのうえ、この舞台となっている星は実は…、とか、世祖アスランが幻視者と科学を「谷」に禁じたのは何故か…、とか、随所にちりばめられた謎が、過去から未来への一本の線となって解きほぐされていくとき、物語世界の構成の緻密さに圧倒されてしまいます。(C)少女マンガ名作選 ――――大地は夢みてやまず、時もまた流れてやまない―――― この最後のページにいたるとき、壮大な物語の終末に深い感動のため息をついてしまったのは、決して私一人ではないはず。そう、太古の物語世界を描きながら、その実これは見事なSFでもあるのです。 ただし、この物語を完全に理解するためには、その前史でもある短編「星の丘より」(「竜の夢その他の夢」収録、「金星樹」(新潮社刊)収録)が必読です。文庫版はこの短編が収録されておらず、ちょっと残念です。しかし、本編だけでも、その壮大なドラマは伝わってきます。また、「竜の夢その他の夢」と「アリス・ブックII」(新潮社)に収録された「雨の竜」と「アリス・ブックI」に収録された「竜の姫君」といった後日談が加わり、本編では、はっきりと描かれなかった登場人物の行く末が推測され、作品の理解が深まります。文庫に収録された本編以外は、いずれも現在入手困難となっておりますが、小学館に佐藤史生作品の文庫化の予定がある(1999年2月現在)とのことですので、機会がありましたら、併せてご一読を!! |