作 者 | 月の子 ―MOON CHILD― | 作 者 | 清水玲子 |
コミックス | 花とゆめコミックス(全13巻・白泉社) <白泉社文庫1〜6(刊行中)> |
初 版 | ・・・ |
初 出 | 『LALA』昭和63年10月号〜平成4年12月号 |
登場人物:ジミー(ベンジャミン)、アート・ガイル、ティルト、ショナ、セツ、ホリー、グラン・マ、ノエラ、ギル・オウエン、リタ・クロディ、(過去から、セイラ、王子、ポントワ)その他。 (注:ニューヨークが舞台) |
あらすじ:売れない、スランプ中の元天才ダンサー、アート・ガイル(22)は、友人に借りた車で走行中、飛び出した少年をよけようとして事故を起こした。事故を起こした当人は全治1ヶ月であるが、少年の方は記憶喪失になってしまった。仕方なくアートはその少年を預かり、ジミーと名づけて一緒に暮らすことにした。ところがこの少年は、アンデルセン童話「人魚姫」のモデルとなった人魚セイラと王子の三人の子供(同じ卵から生まれた三つ子)の一人でベンジャミンといい、月から産卵期のためパートナーを探しに兄弟と一緒に帰ってきていたのだった。 人魚は寿命200〜600年、成長期宇宙という海を泳いで他の星で暮らし、産卵期には必ず鮭が遡上するように地球に帰ってくる。彼等は超能力を有し仲間のにおいをかぎわけ、彼等のいる場所には必ずゴーストが出現する。(つまり人魚を、海ではなく宇宙で泳ぎ、地球で生きる時足があるかわりに超常能力のある「異類」として置き換えたわけである。) ジミーはアートと暮らし始めてまもなく、やはり産卵期で地球に帰って来ていた、母セイラと結婚するはずだった「ポントワ」の息子、ショナと引き合うように出会う。やがて、少年のようなジミーは、月夜に女性化してしまい(人魚と人間のあいの子なので、突然成長し、一人だけが卵を生める女性化するという仕組み)、しかし女性化すると声が出ず、アートにジミーだと伝えることができない。 ジミーはショナに助けを求め走るが、女性化するとそうしたことが度々繰り返されるようになる。春になるまでには完全に女性化してしまうと言われたジミーは、何とかアートに自分の正体を明かそうと試みるが、「ジミー」の面影もない女性化した美しい「ベンジャミン」はそれを伝える術もない。 一方、残された二人のセイラの子供は、女性化できずベンジャミンの産卵を待って死を向かえるばかり、のはずだった。しかし、そのうちの一人セツが、地球の汚れた空気を吸って弱り死んでしまう。そのセツを、生きかえらせるために、もう一人のティルトは、ベンジャミンを死なせ、卵を生ませるという条件で、母がその昔契約した魔女と取引し、「地球を死の惑星にする」という約束をする。彼は政財界の貴公子ギル・オウエンの体に乗り移り、行動を開始する。(C)咲花圭良 一族の長、グラン・マは、この「セイラの子供」が、セイラが「魔女がり」で王子に気にいられるために仲間を売ったように、種の存続に関わる恐ろしい悲劇をもたらすと予言する。その予言を回避するには、ショナとベンジャミンが結ばれなければならない、と結論づけるのだが、ジミーは母がそうしたように、人間のアートが好きで、アートは子供のジミーよりも元恋人のホリーが好きで、ショナは何度も夢にでたセイラの面影を持つ女性化したジミー(ベンジャミン)に心奪われ、またティルトのおかげで生きかえったセツが、女性化できないのにショナを好きになる、という、それぞれの思いの中で物語が進んで行く。 |
コメント:清水玲子には二冊の画集がある。そう、この人の場合、「イラスト集」とは言わない。「画集」である。白黒の原稿も、秀麗すぎるが故に、書きこんでいないにも関わらず、白い画面で限りなく美しい。同年代や後輩のマンガ家たちに与えた影響もきっと大きいだろう。 しかし秀麗な絵柄だからといって、「いかにも少女マンガ」と思いこむと、それは飛んでもない勘違いであることは、読めば思い知らされることだろう。もちろん、少女マンガ的お楽しみも、もちろんないわけではない。が、少女マンガ的お楽しみ、とは「作品効果」として利用されたとき、「ロマンス」のドラマを盛り立てる役をになうことも事実なのである。 清水の作品の中でも、この作品は特にメッセージ性が高いと思われる。特に「第三の御使い ラッパ吹きしに ともしびのごとく燃ゆる大いなる星 天より隕(お)ちきたり 川の三分の一と水の源の上に隕ちたり この星の名はにがよもぎという 水の三分の一はにがよもぎとなり水のにがくなりしによりて多くの人死にたり」――この「ヨハネの黙示録」第八章を、ジミーの心に浮かんだ予言とし、「にがよもぎ」がロシア語で、「チェルノブイリ」ということから、実際に起こったチェルノブイリ原発事故を「起こるべき危険」として物語が展開されているのはその意味で非常に効果的である。そうして、ティルトが起こすはずのこの事故を期に、地球は自然のバランスを崩し、結果的に人魚も卵を生めない星に、つまり滅亡の道を歩むという未来の予言。(C)少女マンガ名作選 この事故が起こったことを我々は知っている。自然、結末を知っているが為に、いやがうえにも緊迫感に追いこまれるわけであるが、事故が起こったにも関わらず、「事故よ起きるな」と願わずにはいられない。なぜならば、物語の内容もさながら、確かにちょうどこの事故の頃から、実際に自然界は激しくバランスを崩し始めていることを、もう知ってしまっているからだ。 数百年前に地球を離れた人魚が、その空気の汚さに病におちるなど、激しい警告とともに、ラストで読者は何を思うだろうか。 ただのロマンスとして終始せず、またメッセージ性だけに偏らず、卓越したストーリー展開に最後まで目が離せない。ただ、よーく考えれば、設定が危ないか? という点がなきにしもあらずであるが、許容範囲であると思われる。 ちなみにジミーの年齢設定は12、3、4歳頃のはずであるが、物語が進んで行くにつれて、どんどん縮んでいくのが、可愛いといえば可愛いが、・・・。 |