少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:1999/11/19

作 品

海の闇、月の影

作 者

篠原千絵

コミックス

フラワーコミックス(小学館・全十八巻)

初 版

1 1987/6/20 2 9/20 3 12/20 4 1988/3/20 5 6/20 6 9/20 7 1989/1/20 8 4/20 9 7/20 10 10/20 11 1990/2/20 12 5/20 13 8/20 14 11/20 15 1991/2/20 16 5/20 17 8/20 18 11/20

初 出

1987年「週刊少女コミック」第3号より連載

登場人物:小早川流風(こばやかわ・るか)、小早川流水(るみ)、当麻克之(とうま・かつゆき)、ジーン・A・ジョンソン、当麻隆(克之の弟)、内海、真琴、水凪薫、桐原卓也、柾巳、今日子、森尾真由夏、シン、乃木教授、野々村士郎、イアン・ヨハンセン(ジーン従兄)、クリスチャン、ヨハンセン(ジーン従兄、イアンとは双子)、その他。

あらすじ:小早川流水と流風は、一卵性の双子。ある日、二人の憧れだった、陸上部の先輩当麻克之に告白されたのは、妹の流風の方だった。
 流水の気持ちを知っていた流風は、返事をうやむやにしたまま翌日、陸上部女子部のみんなでハイキングにでかける。ところが、雨宿り先に入った海のそばの洞窟で、ふとしたことから岩が崩れ、白骨が山のように現れる。途端に、異様なにおいがして、陸上部員たちは次々と苦しがり、あっという間に絶命、流水と流風も、意識不明の重態に陥る。
 意識の戻った二人は、事件から二ヶ月後学校に復帰。ところが、唯一残った女子陸上部員が変死体となって発見され、それが実は流水の仕業だったことがわかる。流水はあのハイキングの事件を機に、ものを通りぬけ、空を飛ぶ不思議な力を身につけたのだった。
 当麻克之が好きな流水は、どうしても流風に死んでもらう必要があった。そのために流風の命を狙い、克之に接近する。克之は二人を元に戻すため、文献を調べていて、二人が洞窟で細菌に感染した疑いのあることを話す。医師に相談して治療した方がいいと克之は進めるのだが、流水は反発し、細菌感染という言葉をヒントに感染を試み、感染させた人間は意のままに操れることを発見、流風を感染した人間に殺させようとつけねらう。
 やがて流水は、家族に事情を説明しようとする流風を阻止するため、家族をも感染させる。その後流水は見境なく感染させていき、流風を殺そうとたくらむのだが、克之の助け、また、流風も流水と同じように能力があり、流水とは反対に、流風は抗体であることがわかり、次々と流水のしかける難を逃れていく。
 ついに流風が逃げ込んだ、克之の家にまで流水は克之の家に侵入、克之と流風が思いのままにならないいらだちから、克之の両親まで殺してしまう。(C)咲花圭良
 克之の両親の葬式の日、金髪長身のジーン・ジョンソンという男が現れる。 
 彼は作家である克之の父親が、ペンクラブを通じて手紙を出した、古墳の細菌についての書物を著した本人だった。
 流風を送ると車で式場から連れ出したジーンは、車ごと流風を海に沈め、流風の能力を試す。海中から抜け出した流風に、いきさつを話した彼は、流水を呼び出させ、二人の体に感染したものを解明するという話を持ちかける。
 ところが、ジーンは、世の中を自由に操ることも可能なそのウィルス〈細菌ではなかった〉の力に、流水と手を組むことにし、流風も仲間に入ることを望んで監禁する。
 そして手始めに、手に入れた病院のスタッフと、政・財界の子弟が通う学校の理事長を手中におさめ、生徒たちを感染させようとしたジーンと流風。ところがジーンは、その阻止に入った克之らを含め、感染しなかったものを体育館に集めて爆破させ、殺してしまう。
 その後ジーンは二人のウィルスを調べ、満月期だけ力を発揮できる二人と違い、いつでのその能力が使える、より強い力を自身が得た。
 二人よりも力をつけたジーンは最強の敵となったのだが…。

コメント:もしジャンルわけするなら、ホラーになるのだろうか。たぶん、怪奇もののくくりに入れるのが正しいかとも思うが、どうもこの人自身それほどプライドを持ってジャンルを選別しているとは思えない。純粋に、マンガ文化の中で育ち、先人たちの作品に感性を肥やされて、自身の得意分野をかけぬけているのではないかと思う。
 前作「闇のパープルアイ」はあまりにも篠原を有名にした作品ではあるが、変身ものプラス、その血の所以の設定を見るにつけても、どうやらそんな気がしてならない。
 とりあえず、これだけ血と死体と涙の出るマンガはそんなに多くはないだろう。そういえば、同じ頃に「北斗の剣」がテレビ放送されていたはずだから、こういうものもある程度OKだったかもしれない。篠原に影響を与えたと予測されるマンガ家柴田昌弘も、この頃「ブルー・ソネット」でスプラッタだったから、おそらくそうなのだろう。

 ウィルス感染という段階を経て、一卵性双生児の双子だけが生き残り、それぞれ繁殖させる側と、抑える側の抗体となってしまった。そのことによって得た能力が、一途に恋のために使われた前半に対し、中盤、ジーンという新たな登場人物を経て、ストーリーは、世界を征服する、という方向に話が展開されていく。ところが、そのジーンも殺されてしまい、残されたウィルスの処方箋がばら撒かれてそれを探さなければいけないという後半にもつれこむ。
 「思う気持ち」だけで、最初、流水はよくこれほど次々と人殺しができるものだと感心した。これもジーン・ジョンソンの登場で幅が出て読みやすくなり、無理もなくなっていく。登場人物の少年たちの体は、どう見ても青年の体だという描き方もちょっと気にならなくはない。だいたい、当麻克之みたいな男子高校生がいるはずもない。
 と、言ってしまえば、この話自体があるはずもなくなってしまうので、無効になってしまうのだが、ストーリー自体に重点をおけば、あまり気にならない。登場人物たちの熱さも、この程度でなければ話自体のあつさもカバーできないし、しれっとした人間が面白みのないように、話を面白くするためには、登場人物もいわずもがな選択されるということだ。(C)少女マンガ名作選
 テレビドラマ化されたのは「闇のパープルアイ」の方だったが、未だにコミックスが出まわっているところを見ると、その人気のほどが伺える。

 確かに、誰もが一度は想像する、「ある日目ざめて、自分の当たり前だった世界が崩壊し、親しい人が別人のようになって、誰も頼れなくなったらどうしよう」という不安が、目の前で実現して描かれるのだから、怖い。さらに、「ある日空を飛べ、壁を抜け、かつヒーローに守られながら、活躍する作品のヒロインになれたら」という思いまで実現しようというのだから、贅沢でさえある。またその度ごとに、危機をしかけて危機を乗り切らせて行く篠原のアイデアも、尽きず出てくる。意外な展開と、「やはり」な展開の繰り返し、篠原が作品をひきつける手法であり魅力だろう。

 たくさんのものを失っていく。得るものなどほとんどない。最後まで、ハッピーエンドをのぞみながら、ハッピーエンドを望めない、不幸なこの物語は、物語が終わっても不幸だけが生き続ける。幸福ではないラストは、否ではないが、あまり印象には残らない。
 それ以上に、作品内部に漂う恐怖、哀しみ、そして激しさが、作品を繰り返し読ませる原動力となっているのだ。

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