コメント:麻薬の売人って悪いやつのはずなのに、どうしてこんなに可愛らしい男なのだろう。
「よくわからないギャグの人」高口里純ならではのキャラクターなのだろうが、たぶん「花のあすか組!」以降の高口しか知らない人には「何だそりゃ?」なコメントになってしまうのかもしれない。この独特のノリが嫌いな人もいるそうだが、伯爵を読めば「それも、ありか」と思うに違いない。きっとそうだ。
とりあえず麻薬の売人で、ハリウッドという過酷な世界に生きているので、伯爵には友達がいない。そんな中で新米刑事スコットと無理矢理数少ない友人になってしまい、無類なさみしがり屋(←しかしこれもどこまで真面目か怪しい)な一面、「金より女、名声より女、野望より女、へたすりゃ酒より女」という無類な女(時には男)好き、恋におちれば徹底一途、ロマンティストにもほどがある、考え様によってはとんでもない大物だが、しかしそれ以上のものを望むわけでもない。
これだけ徹底してるのなら、麻薬の売人だって構やしないわ、と思わせてしまう、独特の魅力が、オスカーという男にはある。(C)少女マンガ名作選
理屈抜きに、「粋」なのだ。
しかしこの作品を際立たせているのは、そのサスペンスの描き方にもある。
「ハリウッド」という、たくさんの役者志望が、数少ないスターの座を目指して競いあう、華やかな舞台の裏だからこそ汚い、そういう世界に絡んだ、哀しく狂おしいまでの事件と、意外な結末。些細な偶然、思わぬセリフ、小さな行き違いが招いてしまう事件、だからこそ、理不尽な気持ちと、やりきれない、やるせない思いが作品の味となって生きてくる。
ただ、作品の数が進むにつれて、ストーリーも絵も整理されていく一方、話そのものも、クレイジーさを失うのは、残念である。この話は、角川書店から出版された愛憎版によると、高口本人にとってはライフワーク的作品だったらしい。実際6年の時間が費やされているが、理解あるファンをのぞいて「花のあすか…」以前、彼女のクレイジーなギャグと、ロマンティシズムは、あまり受け入れられなかった。もし商業主義の波に飲まれず、もっと落ちついて構想を練れたなら、長編の作品として、世の名作群に肩を並べ君臨していたかもしれない。
高口自身が方向転換してしまったなら、もう2度とこの続編は出てこないだろう。マンガ家の中に、時間を積むにしたがって、作風が自由になって自分の好きな世界にどっぷり行く作家と、時代に乗ろうと努力する作家がいるが、別にどちらがいいというわけではないが、高口には前者であってほしいと思いつつ、でも、きっと戻れない時代を、作品に重ねて、ノスタルジックに想いながら、読み返してしまうのだ。