少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良 作成日:2001/11/05

作 品

超少女明日香シリーズ

作 者

和田慎二

コミックス

「超少女明日香」「明日香ふたたび」「ふたりの明日香」
  …マーガレットコミックス(集英社)
「明日香子守唄」「明日香・妖精狩り」「超少女明日香・眠る蛇」「超少女明日香・雨の封印」「超少女明日香・ウエディングスター」「超少女明日香・救世主の血」???
  …花とゆめコミックス(白泉社)

上記をまとめて「超少女明日香」として白泉社文庫(全5巻)、MFコミックス(メディアファクトリー・全6巻)、「超少女明日香 聖痕編」??MFコミックス(継続中)

初  版

「超少女明日香」1976/6/20
「明日香ふたたび」1978/1/20
「ふたりの明日香」1978/6/20
「明日香子守唄」1982/8/25
「明日香・妖精狩り」1986/7/25
「超少女明日香・眠る蛇」1987/8/25
「超少女明日香・雨の封印」1989/1/25
「超少女明日香・ウエディングスター」1991/12/25
「超少女明日香・救世主の血」
 1 1993/1/25 2 6/25 2 1994/6/25
「超少女明日香 聖痕編」1 2000/10/1 2 2001/1/1

初  出

別冊マーガレット誌上、1975年4、5月号に「超少女明日香」を掲載ののち、「ふたりの明日香」までを同誌にシリーズとして掲載、その後、1978年白泉社にに舞台を移し「ララ」に「明日香子守唄」を、「明日香妖精狩り」からは「花とゆめ」にて断続的に掲載された。「超少女明日香 聖痕編」より月刊コミックフラッパー(メディアファクトリー)に移り、現在もシリーズは継続されている。

主要登場人物:砂城明日香、ミック(猫)、田添一也、田添悦子、田添正彦、田添社長と夫人、他

あらすじ:田添家にお手伝いに入った砂城明日香(サキアスカ)は、飛騨の田舎から出てきた、ちんくしゃで薄汚いながらも、家事一切を完璧にこなす少女だった。田添家には、田添建設の社長である父親と、体の弱い母親、高校三年生の長男一也、一年の長女悦子、小学三年生の正彦で構成されていて、明日香は昼しかこれないお手伝いさんの変わりに、夜住み込みの手伝いとして入ったのであった。
 明日香は、昼は学生をしながら、夜は住み込みの手伝いをするという生活を始めた。なぜわざわざ飛騨の田舎から、なぜ田添家のお手伝いに入ったのか。それは、故郷砂神村が、ダム建設のために井戸に毒を入れられ、一族を皆殺しにされたあげく、水底に沈められたといういきさつがあったからだった。その無理で無駄な工事を敢行した建設会社が田添建設で、その真実と執行者を探り、一族の仇を討つために、田添家にもぐりこんだのだ。(C)咲花圭良
 田添家は父親が仕事一徹の人で冷え切っており、心がばらばらの状態だった。そんな家族の状態を反映してか、なんとかお手伝いを追い出そうと子供達がいたずらをしかけてくる。ところが完璧な明日香にはどんな攻撃もきかない。
 しかし唯一、ごきぶりを見ると泡をふいて倒れるという弱点があって、それを知られてしまう。ところが、一緒になって明日香をいじめていた一也と正彦は、ひょんなことから明日香にいじわるをやめ、それどころか先頭をきっていじめていた一也と、明日香はお互いを意識するようになった。
 そんな折、田添建設の株を買い漁り、のっとりをたくらむ、芙蓉建設の芙蓉夫人と、その頭脳である四人組四重奏(カルテット)が、田添建設の裏切り者である田添社長の秘書、八雲とともに、実は社長の弱点である“家族”――その一人である長女の悦子を誘拐し、身柄を引き換えに社長所有の株引渡しを要求する。
 悦子が誘拐された話を盗みきいた一也は、いつもの父親から、父親が悦子を見殺しにすると思い込み、車のトランクに乗り込んで誘拐団の後をたどった。その事情を知った明日香もすぐ後を追う。明日香は、風のような速さで一味の家にたどりつき、高圧電流の流れた柵をもろともせずに破って、ものを浮かせて一味を攻撃し、悦子を救い出したのであった。また、その中にいた田添社長秘書八雲から、芙蓉夫人とカルテットが、田添建設の下請けを、建設業界に乗り込むために操って村を鎮めたのであることを知り、復讐を決意するのであった。
 明日香が風を操り、手も触れずにものを飛ばし、心を読み、ついでにその“超少女”の力を発揮するときに美少女に変身するという秘密を、一也に見られてしまった。一也に目的を果たすまでは黙っていてほしいと明日香は頼み、一也は承諾するのだが、このとき、一也は明日香の秘密を知る、親しい唯一の人になるのだった。
 さて、明日香は五人に分身して、芙蓉夫人の頭脳、カルテット四人の家に潜入した。芙蓉夫人に従わない各建設会社の地下に双子の超能力者ウオーカー兄妹を配して爆破させる、「いさり火」計画遂行を目前にして、明日香のカルテット崩しが始まったのだが…。(「超少女明日香」より)

 以降、この超少女明日香と、相愛で、事件を解決するごとに姿を隠す明日香を追い続ける一也を主軸において、シリーズが展開される。

コメント:和田慎二、といえば、彼本人の名前を知らなくても、「スケバン刑事」の原作者だといえば意外と知られている。あれも武器がヨーヨーだっただけに、ちょっと変わった発想の人なのだが、どの作品も落ち着いて読むと、「えー?」と思うふしがなくもないが、彼の作品を読むときは、決して落ち着いて、現実にかえって、読んではいけない。(別に、現実に戻される心配もないのだが。)
 この超少女明日香が最初に書かれた頃は、SFというものがそんなに少女マンガで描かれざる時代、「エスパーって何?」という頃だったことだろう。昭和50年が最初なので、当時この描き方も絵も主流だったために、当時としては抵抗もなかったろうが、確かに今読むとレトロな感じがする。「超少女明日香」にしても、たぶんここに出てくる「環境破壊」は深刻な問題であった時代であるはずだし、洋服も古いし、着物を着てヘアバンドをしてふろしき包みの「明日香」も、まだ許されたのだろう。なんといっても明日香は勤労学生だ。
 しかし、和田慎二のすごいところは、そのスタイルを何年たっても変えないところで、高度経済成長期が終わっても、バブルがはじけても、その設定で通した。もっとすごいのは、読んでいる側が何の違和感もなくそれを受け入れていたということである。
 あの70年代の絵に、設定に、誰もケチをつけない。
 それはいろんな意味ですごいことである。

 「超少女明日香」シリーズは、作者和田がデビューしてまだ数年の頃にその第一作が生まれ、間「スケバン刑事」「ピグマリオ」、「怪盗アマリリス」などの長編を連載させながら、続けられたシリーズである。和田の最盛期の時は、年に連載以外のコミックスを含めて数巻発刊されたほどで、「スケバン刑事」の原作者と言わなくても、実はかなりの売れっ子だったのだ。それらの好評長編連載のさなかでその連載を休んでも、書かれ、しかもとびとびに登場した、ということは、根強いファンがいたということなのだろう。
 このファン層もまた微妙で、和田の描くマンガは、どちらかというと女の子が主人公なだけの、古い少年マンガののり、という気がしなくもない。おそらく同誌「花とゆめ」掲載の柴田昌弘「ブルーソネット」同様、「なぜこの人が少女マンガ誌に残って描き続けているのか」という疑問が誰しも若干あったと思う。でもあだち充らと違って、少年マンガに移籍しなかったあたり、逆に少年マンガでありながら、少女にも多く読まれたあだち充を考えても、中間作家的性質を持ち合わせ、ファンもまた、少年マンガでは足りない部分を、少女マンガでは足りない部分を、彼(ら)の作品で補っていたのかもしれない。
 そして、彼もまた、少女マンガを読む男性を想定して、描いていたのかもしれない。意外といるのだ。大学生とか、ロック兄ちゃんに。と、考えなければ、読者サービスにいちいち毎回明日香のヌードを描く必要もないし(なんでこれがサービスなんだと実は私はいつも疑問に思っていた)、「女の子の大切な○○」なんて、いわゆる男がそうであろうと期待する少女像であって「そんなこと思えへん、思えへん」なセリフも登場しないだろう。(C)少女マンガ名作選
 ケチをつければ山のように出てきそうなのに、みんなあんまり言わないし、読んだとしても続きを求めない場合、「私あわないから」といってしまうだけなのは、面白いしそれでいい、というのが実際のところかもしれない。超少女明日香を問わず、あのスタイルで、それでも売れ続けたのだから、確かに話は若干レトロな印象があっても、読ませてくれることは読ませてくれるのだ。
 
 大自然の友であり、自然に味方されることによって、超能力を発揮する少女明日香の物語なので、自然を侵し、人間の欲にまかせて動かされた事件に明日香が首入れをし、解決する、というストーリー展開が主流になっている。が、その設 定といい、「許せない」と怒りながら、超能力を使う美少女明日香に「変身」することといい、柴田昌弘の赤い牙シリーズ、小松崎蘭とだぶって仕方が無いのだが、どちらが影響されたのか、偶然似てしまったのか。(どうでもいいことかもしれないが)
 しかし、ストーリーそのものは、和田独自のもので、幕府再興を企てる忍者集団「明日香ふたたび」や、マンモス団地の産婦人科で造成されるエスパーのストーリー「明日香子守唄」など、シリーズのどのストーリーも、時代背景を微妙にとらえながら、意外な着想で事件は起こり、意外な方法での事件解決がまっている。この意外さ、が、和田作品を魅力的にしている原因であるとも思われる。意外な着想と展開についていくためか、人物造詣は類型的でわかりやすいし(いや、これはきっと和田独自のパターンというか好みの問題だとは思うのだが。)、なぜか笑ってしまうおきまりのギャグまでついて(本当にお決まりなのに。)、そして何よりも、あまり意外と思わせない独特の世界がそこにはあるのだ(これを和田ワールドという)。
 きっと、「スケバン刑事」や「ピグマリオ」を読むには、長すぎると敬遠する人も多いだろう。ひとまず、この隠れた名作と言われる明日香シリーズに手を出してみてから、和田ワールドが自分にあうものか試してみるのもいいかもしれない。
 その際には、ストーリーを読み終えた後で、「明日香って歩いてるだけでも妙じゃない?」とか、「こんなことしたらもっと問題になるだろう」とか、「なんでこんな大事件が起こってマスコミは騒がないんだ」とか、「その不思議なラストに導いた明日香をなんで誰も探さないんだ」などとは思わないように―――っていうか、思わないし、あまり誰もつっこみいれない。

 物語の筋そのものは矛盾していないからいいのだけど、なぜでしょう、不思議です。

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