少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良 作成日:2002/08/05

作 品

やじきた学園道中記

作 者

市東亮子

コミックス

ボニータコミックス(秋田書店1〜22巻)、秋田文庫14巻

初 版

初 出

「ボニータ」1982年9月号より連載

登場人物:矢島順子、篠北礼子、徳成雪也(関東番長連合総長、通称上様)、松平貴子(通称貴子姫)、各雲斎小鉄、
大日崎佐門(通称、大門)、早乙女数馬、錦郡菊千代、鳶丸、
緑川、葵上総介他多数

あらすじ:矢島順子こと「やじさん」と、篠北礼子こと「きたさん」は、腕っぷしがめっぽう強い高校生。男子高校生の群れをものともせずのしてしまう凄腕だった。
 その凄腕ゆえに、今回も転校を余儀なくされ、矢島順子は6回目の転校となった。ところがなぜかこの二人、転校するときは示し合わせたわけでもないのに、同じ高校に転入する腐れ縁だった。(C)咲花圭良
 しかし、今回ばかりは違っていた。
 矢島順子が転校のことで母親にしかられているときにかかってきた一本の呼出電話。呼び出された場所に行ってみると、そこには篠北礼子も呼び出されている。呼び出したのは三葉学園の理事長だった。
 理事長が二人を呼び出したのは、一人息子の雪也が関東番長連合の総長になり、学園内の風紀が乱れている。それを二人に平定してほしいというものだった。転校の条件として、入学金と授業料を免除してくれるという。順子は父親心にうたれ、礼子はその条件のために、二人は三葉学園に転校することに決めた。
 転校初日に、その総長の通学風景をみかけると、総長である雪也は女のように細く端正な顔立ちをしている。転校生の順子の隣の席で世話をしてくれる学級委員の話によると、副総長二人に四天王という幹部を従え、成績優秀スポーツ万能なキャラクターなのだという。しかしこの雪也、実はふぬけのようなボケキャラだった。頭にかかえられているだけで、実際関東番長連合を仕切っているのは幹部連中だという。
 やがて、学園にいるうちに、2人は番長連合傘下の連中が起こす様々な喧嘩やもめごとに遭遇した。しかし、いつものように軽くのしていってしまう。当然、のしていくうちに幹部連中に目をつけられる。治安をのぞむ生徒たちからの人気もうなぎのぼりにあがっていった。
 2人はそれぞれ幹部に集団で襲われるが、それでも一人に多勢でも軽く暴れて勝ってしまった。その強さと気風のよさに結局は幹部にさえも惚れられ、味方を増やし、この学園や番長連合を裏で本当に操っている当人へと探りをすすめていく。その中で、ボケキャラだと思っていた総長・雪也も、実はバカ殿を演じていただけで、学園の沈静を目論んで情勢を探っていたのであり、いろいろと礼子の世話を焼いていてくれた、雪也のいとこ、貴子姫が副長二人に弱みを握られ陰の参謀をしていたのだということがわかってくる。
 その中であがってきたのが、海外留学中の模範生・葵上総介がすべての黒幕だということ、そして上総介の父、葵代議士と副長の一人である田沼の父との癒着、改造拳銃密売の情報だった。(以上「千代田編」)

コメント:いないって、こんな高校生。
 いてへんて。
 ほんまにいてへんて。
 高校生の時に読んでも思ったけれども、今読み返してもそう思う。
 それでも、どうも面白くて読んでしまうのは、そういう現実性とかいうことは、問題でないということなのだ。
 あるばかりの現実の高校生をそのまま書いたら物語にもならないじゃないか。
 たとえば水戸黄門だって、史実になるべく近づいて話を作ろうとしたら、案外そっちのほうが不評だった。現実にいた黄門さまより、既にテレビドラマの世界で作られた黄門さまの方が親しまれている。人々が物語の世界に求めているのは、筋の流れや人間の行動として「ほんとうらしい」ことはもちろん必要だけれども、現実にあるかないか、ということが問題ではないのだ。
 と、いうことを納得した上で、やじきたワールドというのは、楽しまなければいけないのである。
 
 やじきたワールドのお楽しみは幾つかある。
 まず、少女マンガでは別に珍しいことではないが、美形キャラが多い。キャラもそれぞれ個性的で面白い。たぶん、このマンガの中で一番人気は、ひたすら忠実で強く麗しい小鉄で、次に主人公の一人、篠北礼子こと、きたさんだろう。(十返舎一九『東海道中膝栗毛』の北さんはかげま=男性を相手にする特殊な仕事だったのだけど、この辺を踏まえているんだろうか、「やじきた」のきたさんは女にもてもて)
 それから独特のしゃべり。江戸時代じゃないってば、というようなしゃべりをする。でも読んでいる間は気にならない。そのうち、読んでしばらくそのしゃべりが頭に残り自分でも使ってしまいそうになる。「おまえさん、そこのおしょうゆをとっておくれでないかい」とか。
 次に主人公たちを始めとしてやたら強い。女の癖にこんな強くていいんだろうか、というくらい強い。たぶんロッキーが出てきたらロッキーもまけるだろう(読後感はあの映画の感触に近いものがあるかも。でも自分実際そんな強くないし〜って感じかな?)。孫悟空もサイヤ人も真っ青である(ほんとかな〜?)。水戸黄門の助さん角さんだってこんなに強くないだろう(これは本当)。しかし、何はさておき、強い。それが痛快というか格好いいというか。逆にいえば、もしこれだけ格闘シーンが多くて強くなかったら、おそらく80年代にドラマ化されていただろうにと思うほどである。
 次に、意外ながらも(?)ストーリーで、いろんなところで政治的に絡ませていて、読める。高校生という階層の中でありながら、その中で少し無理はあるものの、読ませるだけに作りこんでいる。
 癖のある絵、こんな話ないぜ、と思わせながらも読めるのは、こんなふうな条件がそろっている中に、適度なボケとつっこみ、そして江戸っ子独特の人情と粋さを混ぜ込ませているという魅力のせいだろう。実際、レビューを書くのに躊躇する人気漫画の一つであるけれども、粋な江戸っ子の世界であるのだから、文句つけるほうが「てやんでえ」って感じで、特に躊躇することはあるまいと、書くことにした。

 この話を別の作品に例えると、おそらく学園をめぐってそこの問題を解決していく、ということから、和田慎二「スケバン刑事」か、あるいはレベルアップという意味から「ドラゴンボール」、そこに時代劇のムードで味付けしたという感じだろうか。
 でも、こうした作品郡と微妙に違うところは、江戸っ子独特の粋さ、と、笑いが盛り込まれているところで、読んでいて楽しいし、ずんずんとひきこまれる。

 ただ残念なことに、秋田書店にはありがちな、未刊なまま長期で放置されていることである。連載再開のメドはたっていないらしいが、連載を再開し、コミックス化したところで実際どれほどの部数がさばけるのだろうというのが最大の疑問である。番長だの不良だの、あまりに古臭すぎて、新規ファンが取り込めるのだろうか。古いファンは未完からあまりに時間が経ちすぎて、多くが忘れているだろう。
 そういえば、今の高校生に喧嘩だの果たし合いだの、夢のまた夢である。
 完結させるのか、未完のまま完とさせるのか。
 未完だと、解決されていない部分もほったらかしになる。いっそのこと脚本家と原作者である描き手とわけて作業を進めてはと思うのだが、なかなかプライドの許さないところもあろう。(C)少女マンガ名作選
 しかし、完結されてはいないが、一応一つ一つのエピソードの積み重ねで作品が構成されているので、大まかな線では完結していないものの、それぞれの話は読める。
 未読の方には、こんな話もあったのかと読んでもらうのもよいと思う。なかなか笑えて、痛快なので、娯楽としてはかなりいい線いってるのではないだろうか。
 ゲラゲラ笑いながら、かっこいい江戸っ子気分にひたってください。

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