少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:2000/10/19

作 品

プリンセスシンドローム
プリンセス症候群(白雪姫シリーズ)

作 者

山口美由紀

コミックス

「花とゆめコミックス」(白泉社・全1巻)※短編集

初 版

1986年10月25日

初 出

夢降る森のおとぎ話昭和59年 花とゆめ18号
プリンセス症候群昭和60年 花とゆめ18号
Lie☆Lieリトル・アイランド昭和61年 エポJune号
※併載 
月光夜曲―ムーンライトセレナーデ―昭和60年 花とゆめ22号
巷に花の降るごとく昭和60年 花とゆめ2号

登場人物:ライナス、ルーシー、白雪姫、七人の小人(アルフレッド・ブライアン・ベンジャミン・ヒースクリフ・アルジャーノン・エドワード・マクシミリアン)、王子様、リー、若姫他

あらすじ:小説家志望のライナスは、今日も出版社をまわったが、文章がかたすぎるなどということを理由に、断られて部屋に帰ってきた。隣に住む歌手ルーシーにもバカにされ、食べるものさえない日々、天涯孤独な身の上で、落ち込むあまりナイフを思わずみつめてしまう彼だった。
 そこに突然関西弁の七人の小人たちが現れた。彼らは、頼みたいことがあるので、ライナスについてきてほしいというのだ。二階の窓から一緒に飛び降りると、そこはおとぎばなしの森。小人たちに連れられて森の小人たちの家に走り込むと、そこでは白雪姫が手をつけられない状態で暴れていた。
 ライナスは姫に水をぶっかけ、その場を治めるが、小人たちに事情をきいてみると、継母の刺客が毎日のように現れ、白雪姫はノイローゼになっているのだという。そこで、小人たちは、せめて白雪姫の気が紛れるように、ライナスに話し相手をしてほしいと、連れてきたのであった。
 仕事もないことだしと、居座る彼だったが、悩み苦しむ彼女を見て、城にいる母親に話をつけにいこうと小人たちに提案する。城へと向かった七人の小人、ライナス、そして白雪姫は、城の入り口で小間使いのおばあさんに出会い、入れてもらうために声をかける。しかしそのおばあさんこそが、変装した白雪姫の義母だったのだ。(C)咲花圭良
 義母は衛兵に彼らを攻撃させる。白雪姫はその間をぬって義母に近寄ると、話をきいてほしいとすがる。が、義母の振り払ったその手から籠ごと大量のりんごが転げ落ちた。ライナスが毒りんごだから食べてはいけないと叫ぶのだが…。

コメント:「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだ〜れ?」で知られる物語、『白雪姫』の主人公は、実は母親からの刺客に追われノイローゼになっていた。

 実は「これ」といって語り継がれるほどの代表作はないのだけれど、人をひきつけずにはやまない不思議な魅力があって、八十年代のマンガ読者なら、一度は必ずきいた名前ではないかと思う。しかし中でも、優しくかわいらしい絵で描かれる世界、彼女のつくる、ほんわかとしていながら、どこかに人間くささがあって、最後にピリリと心臓をくすぐる、そんなファンタジーたちは、短くてもいつまでも心に残って忘れさせない魅力がある。 (C)少女マンガ名作選
 『V−K(ビビッドキッズ)☆カンパニー』や、『ダンガン×ヒーロー』など、元気のよい学園ものでの方が知られているが、『フィーメンニンは謳う』や『音匣(オルゴール)ガーデン』などの、ほんわりとしたファンタジー世界の方が実は山口美由紀はうまい。私などは、この人の初期短編から、最初のコミックスが学園ものときいてかなりがっかりしたものだった。
 この作、プリンセス症候群は、よくあるおとぎばなしの完全パロディーであるが、実は白雪姫がノイローゼだったという発想、一見笑えるが、確かにああいう状況に置かれたらそんなこともなきにしもあらず、毒りんごも騙されて食べたのではないというあたり、作者が何に疑問を抱いたのか、白雪姫をどうとらえてみたかったのかがほの見えてくる。
 それでも、原話に即して話を作っているのは、最初の作品「夢降る森の…」だけで、その後は、王子様と結ばれ結婚したのはいいものの、白雪姫自身また、姑との確執、育児ノイローゼで家出、その後成長した娘も反抗期で家出という、かなり人間くさい展開、「おとぎばなしの世界もたいへんだ」と笑った後、ふと、ファンタジーの世界を、おちょくってるのか、つぶそうとしているのか、とちょっと疑ってみたくもなるが、読み進めるうちに「物語」そのものへの深い愛情や人間への愛情が感じられて、嬉しい。

 併載された短編『月光夜曲』もまた、哀しい人間ドラマを底辺にしたファンタジーである。しかし山口テイストで決して悲壮さはなく、短編では心に残る、秀逸作品の一つであるだろう。また、併載されてはいないが、同じく短編『音匣ガーデン』も、悲劇の中に情愛の生み出された一品である。是非ご一読いただきたい。

 山口には十巻を越える作品はない。同じファンタジーの中でも長編『フィーメンニンは謳う』(全5巻)等があるが、これに突然入らず、短編を少しずつ読み、咀嚼して、それから、『フィーメンニン―』に入られてはいかがだろか。
 疲れた日常の精力剤、こんな「癒し系」の作品系列を、時に味わうのもいいと思う。作品世界にバトルを求め、情熱を費やすことを目的とした人には余り向かないかもしれないが、ハーブティーを味わうように、アロマテラピーをするように、心にやすらぎを、やさしさを求めた時、絵本を開くような気持ちで読んでほしい一品たちである。
 激しさはなくていい。心の糸をかすかにふるわせて、涙腺を少しだけほどいて、その情愛に、静かにひたろう。

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