コメント:もう今は、大和和紀の代表作、といえば、ともすれば「あさきゆめみし」と若い世代には思われそうであるが、やはり彼女の代表作は、この「はいからさんが通る」であるだろう。アニメにされ、ドラマにされ、映画にされ、舞台にされ、と、その作品享受もきらびやかであることこの上ない。 大正時代を舞台にしていて、作品の内容は、丁寧に大正時代を踏まえている。が、ギャグになると、「まさか、ちょっと待って」という内容がそこここに出てくる上に、紅緒の「この時代は…」という解説が所々入るあたり、漫画のもつ融通性が最大限に生かされていると言っていいだろう。(C)少女マンガ名作選 はっきりいって、シリアスなのは主に恋愛場面で、まさかと思う場面でさえギャグですませてしまうことさえある。紅緒は恐ろしくプラス思考の人間で、作品の痛快さも設定された(というか、大和のセンスか?)彼女の性格から生まれているところも大きいだろう。 出版社への就職、亡命ロシア人、そして震災と、話の展開に、当時の時代的特色が上手に組み合わされているから、作品自体仕組まれた感じはしないけれど、おそらく最初から計画されて描かれたに違いない。「あさきゆめみし」を読んでもわかるが、作品の軽さとは裏腹、書き始める前段階で、相当準備をしている。大和和紀は、勉強家なのだ。 「あさきゆめみし」には「あさきゆめみし」なりの良さがある。が、「はいからさん…」を知っていて、「あさき…」を読んだときは、当たり前なのだが、「ギャグがないよ」と、非常な違和感を感じた覚えがある。 なお、この作品は、昭和四十年代後半から、五十年代前半にかけて少女フレンドで連載された作品であるが、同時代といえば、いがらしゆみこの「キャンディキャンディ」がある。講談社の漫画が全盛だった時期でもあったのかもしれない。やはりこの時代の少女漫画は主人公がドジで美人でなくて、にもかかわらず、取り囲む男たちは長身のハンサムぞろい、(しかも長髪)というのが常道であったようだ。この作品もそれを踏まえている。そんな「時代」を読み取るのも、今では楽しい。 大和独特のギャグ漫画の世界――絵が古くても、レトロな感じがしても、やはり世代を超えて愛されるべき代表作である。 |