少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:99/06/19

作 品

はいからさんが通る―花の東京大ロマン―

作 者

大和和紀

コミックス

講談社コミックスフレンド・KCスペシャル(講談社・全四巻)・
講談社漫画文庫(全四巻)

初 版

―――

初 出

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登場人物:花村紅緒・伊集院忍・環・青江冬青・藤枝蘭丸・環の父・花村家のばあや・忍の祖父母・鬼島森吾・ラリサ・ミハイロフ・車ひきの牛五郎・吉次・大河内中将・印念中佐・牢名主他

あらすじ:大正九年から、関東大震災の大正十二年までを舞台として描いた「大正ロマン」。職業軍人を父に持つ女学生花村紅緒は、新進的思想を持つ少女、新婦人を目指す、いわゆる「はいからさん」だった。その「はいからさん」の紅緒が、突然父親からいいなづけがいたことを知らされる。いいなづけは、伊集院忍という華族の青年で、華族である忍の祖母と、旗本官軍だった紅緒の祖父の、果たされなかった結婚を成すためにされた約束だった。(C)咲花圭良
 もちろんはいからさんの紅緒が承諾するわけがない。紅緒は幼馴染とかけおち、が、途中紅緒を襲った牛五郎をのしたために息統合、立ち寄った酒場で忍と会い、結局連れ戻されることになる。
 行儀見習ということで伊集院家に住みこむことになった紅緒だが、ある日牛五郎と一緒に行った酒場で酔った挙句乱闘し、その相手が忍の上司であるために、結局忍は九州に飛ばされ、そこで騒ぎを起こしたために、前線へと飛ばされることになる。
 忍への気持ちに気づいた紅緒は、忍の帰りを待ち花嫁修行に精を出すが、折りも折り、シベリアの前線で討ち死にした報を受ける。ショックで雨の中をさまよった紅緒だったが、忍の葬式では白い喪服を着て他家へは嫁がぬことを決心、主を失った家を切り盛りするため、仕事を探し、「冗談社」という出版社へ就職、女性記者として働き始めるのだが…。

コメント:もう今は、大和和紀の代表作、といえば、ともすれば「あさきゆめみし」と若い世代には思われそうであるが、やはり彼女の代表作は、この「はいからさんが通る」であるだろう。アニメにされ、ドラマにされ、映画にされ、舞台にされ、と、その作品享受もきらびやかであることこの上ない。

 大正時代を舞台にしていて、作品の内容は、丁寧に大正時代を踏まえている。が、ギャグになると、「まさか、ちょっと待って」という内容がそこここに出てくる上に、紅緒の「この時代は…」という解説が所々入るあたり、漫画のもつ融通性が最大限に生かされていると言っていいだろう。(C)少女マンガ名作選
 はっきりいって、シリアスなのは主に恋愛場面で、まさかと思う場面でさえギャグですませてしまうことさえある。紅緒は恐ろしくプラス思考の人間で、作品の痛快さも設定された(というか、大和のセンスか?)彼女の性格から生まれているところも大きいだろう。

 出版社への就職、亡命ロシア人、そして震災と、話の展開に、当時の時代的特色が上手に組み合わされているから、作品自体仕組まれた感じはしないけれど、おそらく最初から計画されて描かれたに違いない。「あさきゆめみし」を読んでもわかるが、作品の軽さとは裏腹、書き始める前段階で、相当準備をしている。大和和紀は、勉強家なのだ。

 「あさきゆめみし」には「あさきゆめみし」なりの良さがある。が、「はいからさん…」を知っていて、「あさき…」を読んだときは、当たり前なのだが、「ギャグがないよ」と、非常な違和感を感じた覚えがある。
 なお、この作品は、昭和四十年代後半から、五十年代前半にかけて少女フレンドで連載された作品であるが、同時代といえば、いがらしゆみこの「キャンディキャンディ」がある。講談社の漫画が全盛だった時期でもあったのかもしれない。やはりこの時代の少女漫画は主人公がドジで美人でなくて、にもかかわらず、取り囲む男たちは長身のハンサムぞろい、(しかも長髪)というのが常道であったようだ。この作品もそれを踏まえている。そんな「時代」を読み取るのも、今では楽しい。
 大和独特のギャグ漫画の世界――絵が古くても、レトロな感じがしても、やはり世代を超えて愛されるべき代表作である。

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