少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:2000/01/05

作 品

アリオン

作 者

安彦良和

コミックス

アニメ―ジュ・コミックス(徳間書店・全5巻)、中公文庫・全4巻

初 版

1 S.55/11/10、2 56/6/5、3 57/6/15、4 58/7/10、5 60/1/10

初 出

「リュウ」昭和54年5月20日(Vol.1)〜昭和59年

登場人物:アリオン、レスフィーナ、セネカ、ギド、デメテル、黒の獅子王、ゼウス、ポセイドン、ハデス、アテネ、アポロン、リュカオ―ン王、ヘラクレス、エリヌース、(回想:ガイア、クロノス、プロメテウス、パンドーラ、ヨシア)その他

あらすじ:ティターン族と、人間という二つの人種が共存した古代、ティターン族の王、ウラノスは、子、クロノスに殺され、子、クロノスは、その子ゼウスに殺された。父クロノスの死の後、三人の兄弟がそれぞれくじ引きによって当地する世界を決めることになり、天界を末息子のゼウス、海を中のポセイドン、そして地底冥界を、長兄ハデスが統べることとなった。
 ところが、天界を手中に入れたゼウスは、再び自分が一族の子供に殺されるであろう予言をえる。そのために、ポセイドンとの子を産んだデメテルの目をつぶし、聖地オリンポスを追われ、トラキアという片田舎でその子アリオンと二人暮らしの生活を強いるようになった。
 その幼いアリオンとデメテルの元にある日、地底の王ハデスが訪れ、アリオンをさらってしまう。さらわれたアリオンは母の目を治すには、ゼウスを倒すしかないと諭され、成長したのち、オリンポスへと向かう。
 ところが、オリンポスへと向かう前に、ゼウスの娘アテネの軍に捕まり、アテネの小間使いである、優しいレスフィーナに介抱される。しかし、ハデスにもらった剣からティターンのものだと知り、所有者ハデスからアリオンが何を託されてきたのか、知るために、アリオンはレスフィーナが逃げるようにと戒めを解いたことから泳がせられ、ハデスの寝所へと向い、襲いかかったところで捕らえられ、暗殺の罪でオリンポスの黒尾根にさらされ、烏の餌となって処刑されることになった。
 ところが、処刑の戒めをされようというその時、「黒の獅子王」という獅子の仮面をかぶった男に助けられる。(C)咲花圭良
 目覚めたアリオンは、セネカという少年に助けられ、介抱される。逃げたアリオンへの追っ手の迫ったその夜、獅子王が現れ、路銀と剣を差し出し、父ポセイドンの元へ行けと告げられる。間一髪、追ってから逃れ、海へと向かったアリオンとセネカは、ポセイドンと遭遇し、ハデスとポセイドンを責め滅ぼそうとするアテネ軍に対抗する軍に合流するが、途中アリオンは、秘密裏に訪ねたハデスをすべての元凶をくだらない欲のために自分を使って作ったのだと殺し、その死霊にとりつかれ、父ポセイドンを殺してしまう。
 こうしてゼウスのアテネ軍と、ポセイドン両軍に追われることになったアリオンは、獅子王に導かれ、自分のなすべき道を説かれるのだが…。

コメント:この作品の著者、安彦良和が世にその名を知らしめたのは、「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインとしてであろうかと思う。(途中、自らその役を下りたので、現在のガンダムでないことに留意されたい。)その後、彼自身の仕事としては、映画「クラッシャー・ジョウ」(原作・高千穂遥、原作の挿絵・マンガ化も成している)、オリジナルのアニメとして「ジャイアント・ゴーグ」、またビデオアニメに「風と木の詩」がある。
 このギリシア神話をベースとして描かれた「アリオン」は、足掛け5年の歳月を費やし、好評を博した上で、映画「アリオン」として劇場公開された。もちろん作者自身の手になるアニメ化で、アニメブームの波に乗って高額の制作費、キャンペンガールに選出、宣伝等がされたが、私個人としては、映画は外れだったように思う。何よりもセネカが女だったのが一番許せない。
 映画自身の出来はどうあれ、とりあえず、音楽のよかったことは覚えている。それもそうだ。まだ一般にはそんなに有名でなかった久石譲が担当していたのだ。

 その後この人の作品としてマンガに、古事記を題材として「ナムジ―大国主―」などがあるが、「アリオン」同様、実際の神話の中ではウエイトが高くない、というか、主役級でない人物を主人公において、題材としながらも、自らの作品を描き出していることが、何よりも評価できる、というか評価される点だろう。
 何もないところから、自分流の話を一から練り上げるマンガ家も多いし、このように何かをベースにして作る作家もいる。どちらが難しいかというと、ただのパクリではなく、全くベースとなるストーリーを提示した上で、ある程度の人物関係や舞台を考慮に入れて自分の作品を作るほうが、私としてはたいへん難しいとも思うのだが、共同作業によって一つの作品をなす、というアニメーターとして出発した彼だからこそ、こうした作品もこなせる、というか、返って書きやすいのかもしれない。
 ガンダムのアムロは、彼自身の生み出した作品ではなかったが、あの作品が受けた要因として、主人公アムロが決してヒーローらしいヒーローではなく、年齢相応、等身大の少年だったからで、少年特有の苦悩の中で成長しながらストーリーが進んで行く、ということに、多くの少年少女が魅了されたからだと言われている。その影響を受けてか受けずか、アリオンもまた、どこかヒーローらしくなく、どこか運命に翻弄されて「もうちょっとしっかりしろよ」と言いたくなる場面もある。だいたいにして主人公もタイトルも「アリオン」だが、話が進むにしたがって、本当の主人公は誰だ、問いたくなる場面が多々あり、アリオンがストーリーを動かしている、というよりは、アリオンが他の登場人物の作るストーリーの中で動かされている、と言った感じで、実際にアポロンが、ハデスが、アリオンに向かって、「一人の判断で道を選ぶことはできない」「呪われた運命」などという言葉は、書いているうちに安彦氏自身がアリオンという登場人物に感じた、率直な感想ではないだろうかなどとさえ思ってしまう。やはり神話の中に出てくる英雄たちというのは、その存在から伊達には英雄ではないということかもしれない。(C)少女マンガ名作選
 アリオンはとても弱い光である。にもかかわらず主人公である。だから、強靭な英雄たちの中で、どうもあぶなっかしくて目が離せない。最後まで、自分の力のみでは成しえなかった彼であるが、それがかえって、作品に人間くささ、ほんとうらしさを産んでいる。
 もしこれが、英雄の成した、英雄のストーリーであったなら、興ざめで話題にもならなかったかもしれないし、「ギリシア神話」の枠もでなかったであろう。大きな話の中の、小さな人物に焦点を当てて、設定を作り、実は実はと解いていく、その驚きもまた新鮮であるし、なるほどとも思わせられる分、快い。定石の中にある一つ一つの裏切りが、いい意味で、読者を無理なく作品世界にひきずりこんでいくのだ。

 しかし、ギリシアの神々を、あんなふうに悪人ぞろいにさせて、誰?という人物を主人公に据えてしまうのだから、そもそものっけから読者を裏切っっているのが、功を奏しているのかもしれない。しかもギリシア神話を知ってしまった後でも、元々知っていても、これもまた一つの神話エピソードだと思わせられるから、不思議だ。

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