作 品 | 変奏曲 | 原 作 | 増山のりえ |
コミックス | サンコミックス、ストロベリー・シリーズ(全3巻 朝日ソノラマ) 中公文庫コミック版(全2巻)他 |
初 版 | 朝日ソノラマ サンコミックス「変奏曲」第1巻、第2巻 昭和55年3月31日 同 サンコミックス・ストロベリー・シリーズ 「変奏曲」第2巻 昭和58年3月31日 中公文庫コミック版 全3巻 平成11年6月19日 |
初 出 | 「変奏曲」別冊少女コミック(小学館)昭和51年3月号〜5月号 「椿館の三悪人」別冊少女コミック(小学館)昭和50年9月号 「ランボーとヴェルレーヌのように」JOTOMO 昭和52年4月号 「皇帝円舞曲」週刊少女コミック(小学館)昭和52年8〜9号 「ヴィレンツ物語」花とゆめ(白泉社)昭和49年9月号 「変奏曲−−ニーノ・アレクシスその旅路」パセ・コンポーゼ 昭和54年4月 「アンダルシア恋歌」プリンセス 昭和51年8〜9月号 「カノン」グレープフルーツ 昭和56年1号 「カノン(ニーノ・アレクシスその旅路)」グレープフルーツ 昭和56年2号 「カノン」グレープフルーツ 昭和56年8〜9月 (以上、朝日ソノラマ サンコミックス、同 ストロベリー・シリーズ収録分) |
登場人物 |
ハンネス・ヴォルフガング・リヒター (ウォルフ) | 薄命の天才音楽家。ピアニスト。 | ホルバート・メチェック(ボブ) | 音楽評論家。ウォルフの友人。 | エドアルド・ソルティー(エドナン) | ボブによって開花したウォルフを追う天才音楽家。ヴァイオリニスト。 | アンリエット・リヒター(アネット) | ウォルフの妹。 | ローラ・マリエステ・ナンネル | ピアニスト。ウォルフを支え、結婚する。 | アダムス | ウォルフのマネージャー。 | 他 |
|
あらすじ |
かつて、モーツァルト、リストら名だたる音楽家に並ぶ天才少年がいた。彼の名はハンネス・ヴォルフガング・リヒター。この物語は、彼と彼を囲む人々のエピソードである。 彼の才能と音楽に惹かれて、オーストリアのヴィレンツにエドアルド・ソルティーが留学して来る。自分自身の才能ゆえに揺れるエドアルドを導き、開花させたのは、ウォルフの音楽をやはり早くから理解していた音楽評論家のホルバート・メチェックだった。かくして二大天才は出会い、華々しい時を築くことになる。執筆・飯塚 |
コメント |
「変奏曲」はその名の通り、音楽用語でいう所の変奏曲のように、主幹となるストーリーを幾つかの作品で展開して行く手法が取られている。ひとつの作品というよりは、『作品群』と呼んだ方が適当かもしれない。また、それぞれの作品は初出の掲載誌が一貫していない上に、昭和49年から56年までの8年間にわたっての発表になっている。その上、単行本の出版社やシリーズによって微妙に内容が異なっている。しかも雑誌に発表された全てのエピソードが収録されているわけではない。なかなかの読者泣かせの作品だ。 初めて単行本にまとめ上げられた時には、幾つかの作品をひとつに組み上げた(朝日ソノラマから出た豪華本・昭和52年)が、その後はなるべく発表当時のままで編集されているようである。今回の作品リストを書くにあたっては、朝日ソノラマの「変奏曲?〜?」を元にした事を始めに断っておきたい。 この作品の主軸を成すのは「変奏曲」「皇帝円舞曲」「ヴィレンツ物語」「アンダルシア恋歌」の4作品である。いずれも、若くしてこの世を去った天才音楽家ハンネス・ヴォルフガング・リヒター(=ウォルフ)を中心に、彼を取り囲む人々を描いているのだが、それぞれの作品は視点が異なる。「変奏曲」では、音楽評論家のホルバート・メチェック(=ボブ)を主人公に据えて、エドアルド・ソルティー(=エドナン)との出会いとその才能の開花、二大天才の邂逅を描いている。「皇帝円舞曲」では、ウォルフのマネージャーであるアダムスを語り手に、主にウォルフの生い立ちを描いている。「ヴィレンツ物語」では、エドナンを主人公に彼の生い立ちから、主軸となるエピソード全体を、「アンダルシア恋歌」では、ウォルフの妹アンリエット(=アネット)との再会を中心にエピソード全体を描いている。その他の作品は、言わば番外編とも言えるようなものであろう。 主人公・語り手を変えても、いずれの作品もウォルフという一人の天才にまつわる物語の、過去を語ると言う形で描かれている。それゆえ、個々の作品を単独で読んだ場合には、伝記物語を読まされたようでもあり、あらすじを読んだだけのようでもあり、読者を引き付ける物語の高揚が欠けているような感が否めなく、竹宮作品の持つ独特の力強さが希薄に感じられるかもしれない。しかし、前述した通り「変奏曲」は複数の作品でひとつを成すものである。主幹となるストーリーを角度や語り手を変えて語る事により、正にタイトル通りの『ヴァリエーション』が楽しめる事になる。すなわち複数の作品で同じ物語を語るという手法により作者は大きな効果を上げていると言えよう。その点では、単行本にまとめられてから尚一層の魅力を得た作品とも言えるのではないか。 「変奏曲」の魅力は、どこにあるのか。マンガに「音楽」というジャンルを新たに確立したとも言える作品である。しかし、音楽(クラッシック)に特に興味がなければ楽しめない作品だろうか。もちろん、作中で演奏される数々の名曲を知っていれば、一層の輝きを感じる事は出来るだろう。しかしこの作品の魅力は、やはり登場人物達自身の放つ魅力に他ならないと思う。 この作品を初めて読んだ時には、エドナンの強烈な印象が残った。自分の才能を感じながらも確信できずに苦悩する姿と、開花し飛翔する姿は鮮やかだ。しかし、何度か読み返して行くうちに心の底に刻まれるのは、限られた時間の中でいかに自己実現をするか格闘している真摯なウォルフの生きざまだった。両親との死別、妹との生き別れ、養子先で音楽の才能を見出されても薄命の大天才とは、文字通り不幸を絵に描いたような人物。あまりある才能の代償に彼の人生は削られてしまったのか。明日をも知れぬ日々を送りながらも、彼はより高くより深くより豊かな音楽を追求する手を休める事はない。そして、自らが望んだ以上の高みに到達する。「変奏曲」の最後のページに書かれている詩を読むと、とても心を動かされてしまう。自分の人生に対してまっすぐでありたい、と。 どこか押さえた語り口と何度も繰返される物語の中には、寄せては返す調べがまさしく存在し、それはウォルフの音楽に対する情熱のように静かで確かな深さを心のどこかに刻み込ませるものである。大きな声で叫ぶわけではないが、淡々と何度も繰り返される内に刻まれる彼の情熱の印象は、紅い炎よりも青い炎の方が熱いのと似ているように思われる。そして、読み進めて行くうちに説得されてしまうのだ。ウォルフという、音楽を愛して止まない一人の天才がいた事を、彼に惹かれて集まってきた人々がいた事を。そして音楽の素晴らしさを。(C)少女マンガ名作選 かつて少女漫画は、現実には有り得ないような理想の恋やタナボタ的な幸せの到来を描いて、読者の支持を得ていた時期があった。もちろん読者と等身大のストーリーで支持を得ている作品もあるが、今でも現実には簡単に起こり得ないようなストーリーが多いのは事実だろう。『理想の恋』が『物質的な豊かさ』にすり替わったり、異世界の生物、特異な能力と、「想像の対象」の変遷は終る事はない。この作品にしても、凡人にはおよそ縁のない『天才』達の世界を描いたものだ。読者は天才達に自分を重ねる事は出来ない。そんな内容でも空々しい他人事ではなく共感出来るのは、やはり物語としての魅力が十分にある事に他ならない。その作品世界の持つ深さが読者を引き込むのだ。もちろんこれは多くのマンガに言える事だとは思うが、少女漫画の中でも特に狭いジャンルに振り分けられているこの作品について語る時に、言及したかったという思いがある。 最後に「カノン」に少し触れておきたい。「カノン」は、「変奏曲」と題された単行本にも一部収録されているし、作者自身『変奏曲第2部』と称しているが、今回のこの作品リストでは対象から外した。「カノン」は原作も竹宮惠子で、「変奏曲」の続編にあたる。「変奏曲」本編が才能に恵まれた二人の天才の開花を描いた作品ならば、この作品は親の才能の影に苦しむ、ウォルフとエドナンの子供たちの物語である。 以前読んだ事のある方も、まだ読んだ事のない方も、ぜひ全編を通して読んでみてはいかがでしょうか。今年(1999年)の6月に中公文庫コミック版が出ていますので、それが現在もっとも手に入りやすいのでは。今回の作品リストの基盤になっている朝日ソノラマから出版されているものとは内容が若干異なりますが、発表当時の形に近いようです。ただし「カノン」については全て収録されているかは未確認です。(収録タイトルは「カノン――いとこ同志」「カノン――ニーノ・アレクシスその旅路」になってます。) |