19世紀末の南フランス。セルジュは、父の母校ラコンブラード学院に転入してきた。学院長の部屋へ通されたセルジュは、そこで一人の少年に出会う。その少年こそ彼の人生を大きく変える事になるジルベールだった。寮で彼と同室になったセルジュは、娼婦のような生活を送っている彼をどうにかして普通の少年にしようとする。しかし、彼は肌を触れ合わせる事によって人を測り、また、ありのままの自分を認めない全ての人間を拒絶するのだった。 セルジュは、かつては父の学友であった教師達や友人達と心通わせて学院生活を満喫する一方、ジルベールに惹かれて行く自分に気づき戸惑う。ジルベールはあまりにも美しく、そして誇り高かった。他人から蔑視されながらも自分を曲げないジルベールに、セルジュは共感せずにはいられなかった。セルジュもまたジプシーを母に持つ為に、蔑視され生きてきたのだ。冬の休暇をパスカル宅で過ごし学院に戻ったセルジュに、憔悴しきったジルベールがベッドを共にするよう懇願する。普段は高慢なのに、彼に何があったのか。躊躇しながらも願いを汲んだセルジュは、肌と肌の触れ合いに不思議な安堵を覚えた。この事実は生徒総監ロスマリネの知る所となり、学院を陰で牛耳る人物、ジルベールの叔父のオーギュスト・ボウに報告される。 * マルセイユ、“ケルビム・デ・ラ・メール―「海の天使」城”、そこでジルベールは生まれた。しかし彼の誕生は母親にまで呪われ、5歳まで肉親の愛情・教育を一切受けずに成長した。その後オーギュストに出会ってからは、彼の意のままに育てられ、9歳でボナールに強姦されてしまう。ぼろぼろに傷つき戻ったジルベールには、誇りも意地もなかった。彼を前に、オーギュストは性に汚されて行った、かつての自分を見た。自我の崩壊を防ぐには、より大きな力の支配しかないのだ。自分自身がそれになって、ジルベールを支配する――オーギュストはジルベールを性の相手として扱った。しかし、ジルベールはオーギュストに屈することなく、それを愛と受け取り、より一層自信に満ち輝いた。 二人はパリに移り住む。社交界の寵児となったジルベールだが、眩しいほどの彼にオーギュストの気持ちは冷めて行くばかりだった。ボナールとの再会、それはジルベールの心の傷を再び開いた。しかし、それにすら打ちのめされる事はなく、開き直るジルベール。そんな彼にオーギュストの手ひどい仕打ちがなされた。ボナールの元へ身を寄せるジルベールだったが、心はオーギュストを焦がれ続けた。ヴァンセンヌの森でのボナールとオーギュストの決闘で決着が付けられ、オーギュストの元に戻った彼だったが、ラコンブラード学院へと転入させられた。ジルベール、11歳の時であった。執筆・飯塚 セルジュの父と母は、子爵家の跡取りとジプシーの娼婦という関係で、一切合切を捨てて駆け落ちして結ばれていた。セルジュは両親の愛を一身に受けチロルで生まれ育ったが、両親とは3歳の時に死別してしまう。祖父の遺言によって子爵家に迎えられ、跡取りとしての教育を受けるが、正式なお披露目の日に最後の肉親の祖母が他界してしまう。子爵家の財産に目が眩んだ伯母の策略によって、苦境に立たされるセルジュ。しかし使用人達の優しい心遣いによって、徐々に立ち直っていった。父から受け継いだピアノの才能を伯母のサロンで披露する事で、時には救われ、時にはその生まれを辱められる事もあった。子爵家に居座った伯母の娘・アンジェリンとの出会い、そして彼女との交流、子どもらしい日々を過ごす事になる。しかし、アンジェリンの激しいまでのセルジュに対する恋心は悲しい事件を引き起こし、セルジュは全寮制の父の母校に行く決心をする。 * セルジュが自分の思いをまだ認めぬうちから、オーギュストはセルジュとジルベールを引き離そうとした。夏の休暇、学院に残っていた二人はマルセイユに呼ばれる。そこでセルジュはオーギュストとジルベールの関係を思い知らされる。二人の関係を知っても、尚、ジルベールをいとおしく思うセルジュだった。ジルベールにオーギュストとの関係を絶つよう試みるものの、ジルベールは承知しない。逆にオーギュストの手に落ちてしまったセルジュは、その事実をジルベールに伝えてしまう。オーギュストが彼を「ペットとして育てた」と言った事をも。オーギュストの元にいては自分が駄目になって行く事に気づき始めていたジルベールは、あれだけ焦がれたマルセイユを後にセルジュと共に学院へ戻った。しかし学院に居ては、ジルベールの渇きは癒されるわけはなかった。渇きを満たせるのは唯一オーギュストだけだったのだ。セルジュは葛藤する。ジルベールに対する恋心を認めつつも、最後の扉を開けられないでいた。――しかし、セルジュは決心をする。ジルベールは、罪を犯してまでも手に入れる価値のある相手だと。やがて二人は身も心も結ばれる。結ばれてしまった二人は、もう、相手を失えなくなっていた。二人を執拗に引き離そうとするオーギュスト。不本意ながらもそれに荷担するロスマリネ。ロスマリネもまた、オーギュストの汚い手管に落ちていたのだ。追いつめられたセルジュとジルベールは、学院を後に、パリへと逃げて行く。――チロルへ行くはずだった。しかし二人の逃亡に手を貸したロスマリネの言葉、「計画通りでは、いずれ捕まる」という言葉にセルジュは計画を変えたのだった。
パリでの二人の生活が始まった。しかし、それは決して甘美で満たされたものではなかった。ただ美しく存在すら感じさせないジルベール、そして現実を満たそうとするセルジュ。二人のすれ違いが続く中、ストーリーは胸の裂けるような悲劇へと進んで行く――。 |