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冬の火

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 手紙の束の中から、次の日付の手紙を、貴司は、夢中になって探した。
 後になって考えてみれば、その夢中さは、すこし滑稽だったかもしれない。
 少なくとも、彼は、その次の日付の手紙を流し読みして、途中の文字に思わず我に返らずにはいられなかったのだ。
 ――あまり、大袈裟に考えすぎないでくださいね、おじさま――
 彼は愕然とした。また、こんな言葉にも、驚かされたのである。
 ――あの時は、突然あなたが行ってしまったために、動揺してしまって、あんなみじめったらしい言葉を並べてしまったのです――

 彼は読みかけた手紙から、思わず目を離した。
 前の手紙とのギャップ――軽い衝撃――女なんて、と口走りそうになり、その後で、束ねられた手紙の数に、首を横に振った。
 束ねられた手紙は、いったい幾つあるだろう――ずいぶん古い――父がずっと、大切にしまっていたものなのだろう。日付は、自分の生まれる前のものばかり、送り先の住所も転々としている。
 藤原貴子は、父へあてて、こうしてずっと手紙を書きつづけていたのだ。転居した所在を彼女が知っていたということは、父もその返事を書いて所在を知らせ、そして、彼女の手紙を待っていた。
 父は何を思ったろう。恋心は、秘められたまま、決してはっきりと語られることはなかったのではないだろうか。だから、この手紙の数が、積み重ねられていったのではないだろうか。
 私は愛している――私を愛してください――次々と重ねられた手紙の中で、それは禁句だったのかもしれない。かつて二人が、気持ちを知りながら、決してそれが表に出されることのなかったように――。
 いったい何が、二人を隔てていたのだろう。 
 貴司は落ち着いて手紙は点検した。手紙は、縦の封筒に入れられて、便箋も縦書き、三つ折りにして裾が折り返されている。
 古風な、と彼は思った。
 几帳面なほどに並びたてられた、麗筆――つまり、これは、こういう女なのだ。
 
 貴司は思わず、自分の若さを笑い、そして、うまくいかない自分の恋を呪った。
 そうなのだ、血筋なのだ。
 彼は今広げた手紙を封筒の中に収め、立ちあがった。手紙の束を両手に集めて抱えると、庭に面した縁側へと置きに行った。板間の上に置いたそれをみつめ、父の生きた時間を想う。
 燃やさずに、ゆっくりと、もう一度――
 彼はまた、火元へと帰って行った。

 
(以上執筆者:咲花実李)

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