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冬の火

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 ――川が流れていた。ドロドロとした茶褐色の水苔が一面を覆いつくし、蒸気のようなものが沸き上がっている。丸みを帯びた物が間に挟まっている。何か腐敗したものがうずくまっているとしか思えない代物だ。
 ――川幅は常に変化しているのか大きさがわからない。川の中州あたりに爆弾が落ちたあとのような廃墟と化した崩れた壁がある。
 ――そこに男は立っていた。窓があった辺りからこちらを覗いている。恨めしそうな顔して、男は静かに川を渡り遠ざかっていった。
 ――その男の後を灯籠流しのように幾枚もの手紙が流れていく。

 「父さん」――そう叫ぶと、まぶしい光が急に目を刺激した。小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 夢なのか……。

 昨日は、手紙を読みふけっているうちに、うとうと眠ってしまったのだろう。机の上に束になった手紙が、今にも崩れ落ちそうな形で置かれてあった。
 
 貴司はむっくりと起きあがると、ふらふらした足取りで階下に降りていった。いつものように新聞をとりに郵便受けのところまでいき、それを引き抜く。と何かがパサッと落ちた。
 散らしだろうと思ったが、それは手紙だった。
 差出人の名前を見て、貴司は眉間に深い皺を寄せた。しばらくそこから動くことができなかった。もう一度、目を凝らしてみたが、何度みても手紙の送り主の名前が変わるわけではなかった。

 その名は――藤原貴子――とある。しかも自分宛だった。 

(以上執筆者:羽柴翔蝶

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